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お前の番だ! 469 [お前の番だ! 16 創作]

「まるで何かの被害者の様なもの云いをされますが、それは事を起こす前の洞甲斐先生の熟慮の方に属する事柄で、こちらに責任をふられても困ります」
 万太郎は相変わらずつれないのでありました。
「結局、移籍の件は全く受け入れる余地はないと云う事ですかな?」
「そうご理解頂いて結構です」
「それは総士先生のご意志であるのですな?」
 万太郎は無言で頷くのでありました。万太郎のすげない頷きを見た後、洞甲斐先生は眉根を寄せて万太郎から視線を背けるのでありました。
「お断りの件は電話で済ませても構わないと云う話しも出ましたが、こうして直接お会いしてお話しさせていただいたこちらの礼意を、後は斟酌していただければと思います」
 万太郎はそう云って、ジョッキに残っているビールを飲み干すと矢庭に立ち上がるのでありました。洞甲斐先生は万太郎の突然なこの動作に何を勘違いしたのか、顔を引き攣らせて慌てて腰を少し椅子の後ろに引くのでありました。
「では不躾ですがこれで失礼させていただきます」
 万太郎は動揺を隠せない目で見上げる洞甲斐先生に向かってお辞儀するのでありました。その後にテーブルの隅にある勘定書きを手に取って席を離れるのでありました。

 その日調布の道場に帰りついたのは夜の十時半を少し過ぎた頃でありました。
「ご苦労様でした。首尾は如何でしたか?」
 迎えに出てきた来間が玄関を入った万太郎に早速訊くのは、勿論洞甲斐先生との話しはどうなったかと云う事であります。
「まあ、ほぼ円満に話しをつけた心算だが。・・・」
「あれこれごねたりはしなかったですか、洞甲斐先生は?」
「何だかんだ、あっさりとはいかなかったが、思った程手古摺る事はなかったな。しかしまあ、あの手の人と話しをするのは何とも骨が折れるけどなあ」
 万太郎は苦笑って見せるのでありました。「ところで総士先生はどうされている?」
「押忍。控えの間で鳥枝先生と一緒に、折野先生のお帰りを待っておられます」
「鳥枝先生も一緒なのか?」
「小金井の出張指導の後道場にお戻りになって、その儘残っておられます。それに花司馬先生も居残っておられますよ」
「ああそうか。じゃあ早速報告に伺うか」
 万太郎は靴を脱ぐとその儘師範控えの間に向かうのでありました。
「押忍。折野です。ただ今戻りました」
 万太郎はそう声をかけた後、障子戸を開いて中に向かって座礼するのでありました。
「おう、ご苦労さん。早速だが報告を聞こう」
 鳥枝範士が手招きをするのでありました。それに応じて万太郎が座敷に上がるとすぐに、母屋からあゆみも姿を見せるのでありました。
(続)
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