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お前の番だ! 463 [お前の番だ! 16 創作]

「ま、そう云う事です」
 万太郎は笑いを消して頷くのでありました。「洞甲斐先生としては道分先生のご遺志に反するような真似は、先生の古い弟子として我慢がならないのだそうです」
「ほう。それはまたご殊勝な」
 是路総士は呆れ顔と頬の嘲笑を隠さないのでありました。
「道分先生のご生前から、先生のお考えとはまるで違うような胡散臭い事をやって、度々勘気を蒙っていたあの洞甲斐さんが、今更どの面下げて、と云ったところですなあ」
 花司馬教士も哄笑するのでありました。
「しかしご当人は到って真面目なお顔でそう云われました」
「図々しいと云うのか、諸事に鈍過ぎるというのか、大した大根役者ぶりと云うのか」
 花司馬教士は顔を顰めて見せるのでありました。
「若し総本部への洞甲斐先生の移籍が叶うのなら、こちらの八王子支部と自分のところを統合して、責任を持って自分が面倒を見る心算だと云う風にも云われました。そうやって自分に八王子を任せて貰えれば、総本部の負担も少しは軽くなるだろうとも」
「ほう。総本部の負担の点までご配慮頂いているとは、慎に以って忝い事だな」
 是路総士がそう云うと横のあゆみが笑うのでありました。
「全く、厚顔無恥にも程があると云うものです」
 花司馬教士は、今度は怒気を含んだ表情をするのでありました。「厚かましいだけじゃなくて、自分がどのような目で人から見られているのかも全くご存知ないようですね」
「概ねご存知の上で、しかし考えがあって恍けていらっしゃるのかも知れませんよ。尤もそんなお芝居をしても、得るものよりも失うものの方が多そうですけど」
 あゆみが口元に憫笑を浮かべて花司馬教士に云うのでありました。
「一般的には、そう云うヤツを、馬鹿、と呼ぶのですよ。最初折野先生に諂うような下手に出るような態度で近づいてきたのは、只管好印象を得ようとしての事でしょうけど、その上で云っている内容がそんな不届き千万で無神経な事ですから、なめた真似をするのも良い加減にしろと怒鳴りつけてやりたいくらいですよ、全くもう」
 花司馬教士は本当に怒鳴りつけるような語調で云うのでありました。
「僕はなめられたと云う事ですかね?」
 万太郎が花司馬教士に案外無邪気な顔で訊くのでありました。
「折野先生があの馬鹿野郎の事をあまり知らないだろうと、そう云う了見から折野先生を狙って近づいてきたのでしょう。あの馬鹿野郎の考えそうな姑息な手ですね」
 花司馬教士は洞甲斐富貴介先生の呼び方を、あの馬鹿野郎、と云う風に大いに格下げするのでありました。名前も口に出したくないと云うところでありましょうか。
「あまり知らなくても、話してみればそのどことない怪しさが判るでしょうけどね」
 あゆみが評言を加えるのでありました。
「僕も洞甲斐先生の為人は、評判として間接的にではありますが満更知らない事もなかったですし、話してみると、成程評判通りの方だとげんなりしましたよ」
(続)
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