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お前の番だ! 462 [お前の番だ! 16 創作]

「それに門下生にしても興堂派以来の古手の主立った者達は、総本部系の道場に移ったり、武道をすっかり辞めて仕舞ったりと云った具合で、今では興堂流になってから新しく入門した人の方が全体としては多くなっているようですし」
 万太郎が花司馬教士の言に頷くのでありました。
「もう今は、常勝流の組形等は全く稽古されなくなったみたいですよ。新しい指導員連中が自分の身の丈で勝手に考案した打撃中心の技を、道分先生由来の技だと謀って教えていると云う話しです。道分先生に逢った事もないような連中が、です。新しい門下生達にしても、そう云うものか、と云った具合で、大方は納得しているらしいです。これは前に板場から直接聞いてもいますし、漏れ聞こえてくる噂もそう云ったものですね」
 花司馬教士は憤懣遣る方ないといった云い草をするのでありました。
「そう云う状態に対して、宗家である威治君は何も云わんのかな?」
 是路総士が疑問を呈するのでありました。
「新しい指導員連中の鼻息に圧されて、内心苦々しくはあるけど黙認していると云った按配のようです。威治宗家は云ってみればお坊ちゃんですから、狡賢くて世知に長けた連中にちやほやされたり威圧されたりすると、どうにも手出しする術がないのでしょう」
「そのような事は洞甲斐先生もおっしゃっていました」
 万太郎が口を挟むのでありました。「道場では常勝流の稽古をした事もない指導員連中が、一応威治宗家を立てるような素ぶりをしながら、大きな顔でのさばっていると」
「威治宗家としてはここでそう云った連中のご機嫌を損ねて造反されても困るし、実際試合してみればその連中の方が威治宗家なんかよりも遥かに強そうだし、ここは一つ苦々しくはあるけれど、連中の跋扈を黙認しておいた方が無難だと云った了見なのでしょう」
 そう云って花司馬教士は結んだ口の端に憤慨を籠めるのでありました。
「ふうん。それが本当なら、威治君もここに来て色々試練させられているわけだ」
 是路総士は特段皮肉るような口ぶりでもなく、無表情にそう云うのでありました。「で、洞甲斐さんはそれを昨日お前に愚痴ったと云うわけだ」
 是路総士は万太郎の方を見るのでありました。
「概ねそうですね。で、洞甲斐先生としては、そろそろ興堂流に見切りをつける潮時だとお考えになっておられるんだそうです」
「ほう。洞甲斐さんがようやく潮目をお読みになったか」
 是路総士は、こちらはやや皮肉るような笑いを添えるのでありました。
「期待した程興堂流で大事にあしらってくれないから、臍を曲げただけでしょう」
 花司馬教士が鼻を鳴らすのでありました。
「瞬間活殺法は、新しい指導員連中からも相手にされなかったのかな?」
 是路総士が薄く笑いながらそう云うと、花司馬教士も万太郎もあゆみも是路総士と同じような笑いを口の端に浮かべるのでありました。
「それで折野先生に、総本部への移籍が叶うかを打診してきたと云う事ですか?」
 花司馬教士が口の端に先程の笑いを留めた儘万太郎の方を見るのでありました。
(続)
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