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お前の番だ! 457 [お前の番だ! 16 創作]

 万太郎は余裕の笑いを笑って見せるのでありました。
「火のない処に、・・・とかも一方で云いますが、それは兎も角、折野先生とあゆみ先生を見ていたら、年格好も何も如何にも丁度良いカップルに見えるのでしょうね」
「ふうん。そう云うものですかねえ」
「自分が見ても、そう見えない事もないですからねえ、実際の話し」
 花司馬教士はそう意趣あり気に云ってから、ようやく万太郎から目線を外すのでありました。万太郎は不覚にも胸の高鳴るのを制す能わず、と云った態でありましたか。

 不意にあゆみの声がするのでありました。
「お二人で何をコソコソお話しになっているのかしら?」
 万太郎と花司馬教士は稽古合間に食堂でこんな話をしていたのでありましたが、次の稽古のためにあゆみが着替えを済ませて食堂に現れたのでありました。二人は慌てて取り繕うように寄せていた頭を離して、起立してあゆみの方に体を向けるのでありました。
「いや、特段の話しと云うのではありませんが。・・・」
 花司馬教士がたじろぎを隠すように愛想笑いながら応えるのでありました。
「あたしに聞かれると拙い、男同士の密談ですか?」
「そう云うものでもありませんが、・・・どうと云う事のない、世間話しですよ」
「へえ。どうと云う事のない世間話し、ですか」
 あゆみは敢えて花司馬教士の言葉を繰り返しながら、万太郎の方に視線を移すのでありました。万太郎は目が躍らないようにあゆみの方を必死に睨むのでありました。
「それにしては、お二人の頭の寄せ方が近過ぎるように思いましたが、そう云う場合は大体、良からぬ相談をしている時と相場は決まっていますけどねえ」
「いや、少年部の現状について色々話していたのです」
 万太郎が応えるのでありましたが、これはあながち嘘でも誤魔化しでもないだろうと、少々冷や汗をかいた頭皮の内側で考えるのでありました。
「それならあたしも、その話しに参加したいわ」
「いやその、総士先生や鳥枝先生、それに寄敷先生がどうも少年部を甘やかし過ぎるんじゃないかとか、まあ、そんなような事を話していたんですよ」
 万太郎が花司馬教士と話していた後半の些か不謹慎とも云える部分を隠して、前半の件を、如何にもと云う風ではない口調で、如何にも取り繕うように云うのでありました。
「ああその事ね。でもその内にご三先生も子供の相手に厭きちゃうと思うから、もう暫く辛抱していれば解決すると思うわよ」
「花司馬先生もそう云うお考えのようです」
 万太郎はそう云いつつ花司馬教士の方に視線を向けるのでありました。花司馬教士は万太郎の視線に笑いながら頷いて見せるのでありました。
「ところで花司馬先生も万ちゃんも、今日は出稽古だったわよね?」
「そうです。花司馬先生が池袋で、僕は八王子です」
(続)
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