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お前の番だ! 452 [お前の番だ! 16 創作]

 是路総士はそんな話しを紹介するのでありました。
「そんな事まで頼んだのですか、ウチの両親は?」
「ああ。お兄様にはもう赤ちゃんもおありになるし、お姉様の方も地元の市役所に勤めていらっしゃる方とご婚約中だそうで、残る気がかりの種はお前だけだそうだ」
「彼奴は呑気の国から呑気教を広めに来たようなヤツだから、放っておくと一生嫁取りしないでいるかも知れない、なんてお父様が心配されていたわよ」
 あゆみが云い添えるのでありました。
「全く余計な事を。・・・」
 万太郎は苦った表情をするのでありました。
「一応、心がけておきますと私は返事をしておいたのだが、お前、何かそう云った浮いた話しなんぞは何もないのか?」
 是路総士は万太郎の顔を覗きこむのでありました。
「押忍。今のところ生一本に無骨一辺倒でやっております」
「ふうん。秘かに思いを寄せる人とかもいないのか?」
「それがね、どうもいるらしいのよ、万ちゃんにもそんな人が」
 あゆみが横の是路総士に真面目な顔で頷いて見せるのでありました。
「ほう。誰だ?」
 是路総士は意外な、と云う目をして万太郎に見入るのでありました。
「あたしも追及している最中なんだけど、なかなか口を割らないの」
 あゆみが万太郎を睨むのでありました。
「ああそうか。しかしそれなら話しが早いじゃないか。何なら私が取り持とうか?」
「押忍。折角の総士先生のお言葉ですが今のところは遠慮させていただきたく思います。思いを寄せる、なんと云ってもそれは何と云うのか、・・・仄かな憧れのようなものでして、その人とどうこうなりたいと云った志望と云うのではないので、・・・」
 万太郎は深くお辞儀するのでありました。
「ほう、仄かな憧れ、ねえ」
 是路総士は口元に笑いを湛えるのでありました。それは嘲笑とも取れる笑い顔でありますが、確かに三十を過ぎた男の言葉にしては些か青過ぎると云うものでありますか。
「ま、高嶺の花、と云ったところでして。遠くで見ていたい存在、と云うのか、・・・」
 万太郎は照れ臭くなって云い直すのでありました。しかしこれも矢張り三十男の言葉としては嫌に浪漫的に過ぎるでありましょうかな。
 それより何より、その自分の今の言葉で、意中に在る人が誰であるのか是路総士やあゆみに、朧気ではあろうけれどもある程度の確度を以って特定されたのではないかしらと、云った後に万太郎は内心冷やりとして仕舞うのでありました。
「何か、高校生と話しているみたい」
 あゆみが是路総士と同様の笑みを口の端に浮かべるのでありました。あゆみは万太郎の言葉の幼さ加減の方に気が向いたようで、それならまあ好都合なのでありますが。・・・
(続)
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