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お前の番だ! 449 [お前の番だ! 15 創作]

 万太郎はその同級生を思い出すように、目線を遠くに馳せるのでありました。「体操をやっている女子は大概背が低い子が多いのですが、その子も身長は小さい方でしたね。でも顔も小さくて体の線が細くて、それに首が長くて、遠くから見ると如何にもスラっとした印象でしたね。稽古の時にあゆみさんがよくやるように、練習の時は長い髪を後ろにクルクルと巻くようにして束ねていて、そうすると細くて長い首が余計目立ちましたね」
「ふうん。それで体操の方は上手かったの?」
「そうでもなかったですね。大会でも特に入賞したなんて話しは聞きませんでしたから。しかし練習中の彼女は如何にも体操が好きで堪らない、と云った感じでしたかね。丸い目を見開いて熱心そうに、顧問の先生の指導に何度も頷く仕草が印象的でした」
 万太郎がそう云ってあゆみの方に目を戻すと、あゆみは万太郎の話しを如何にも熱心そうに聞きながら、数度頷いて見せるのでありました。
「そう云う可愛らしさにも万ちゃんはキュンときたわけね?」
「ええ、まあ、そんなような次第で」
 万太郎は面目なさそうに俯いてコーヒーカップに手を遣るのでありました。
「で、どうしてフラれるような次第になったの?」
「僕はどちらかと云うと高校生の頃は惚れっぽい性質だったので、何かの拍子に、あゆみさん云うところの、キュン、がきた途端、もうそれで一人で舞い上がって仕舞うのです。で、思いが募ってどう仕様もなくなって、或る時部活の帰りに待ち伏せして手紙を渡そうとしたのです。学校から五六分歩いた処にバス停があって、その途中を狙って」
「ふうん。ラブレターを渡そうとしたわけね。それって何だか、ちょっと古風な感じね。万ちゃんらしいと云えば、如何にも万ちゃんらしいけどさ」
「僕としてはクラスの中やクラブの練習の合間に少し言葉を交わす機会もあって、向こうも僕に、少なからず気があると踏んでいたのでそんな思い切った行動に出たのです」
「万ちゃんの気持ちとしてはそうかも知れないけど、向こうにしたら、如何にも唐突な万ちゃんの行動だったと云う事かしらね?」
「ま、そうですね。だから、驚いたと云うよりは恐怖に近い表情になって、僕が手渡そうとした手紙をなかなか受け取ろうとはしないのです。僕としては目算違いも良いところで、一挙に立つ瀬はなくなるわ、恥ずかしさで消えも入りたくなるわ、それでもなんとか体裁は繕わなければならないわで、余計怖そうな顔になっていたと思いますよ」
 万太郎は頭を掻きながら柔和に笑って見せるのでありました。
「それで手紙は受け取って貰えたの?」
「強引に手に握らせて、僕は急いでその場を離れました」
「何か、昔のテレビの青春ドラマみたい」
「いやどうも面目ありません。この顔でそんな行為は似あわないですよね」
「まあ、そうでもないけどさ」
 あゆみは少し口元を綻ばせるのでありました。「それで、その後どうなったの? まあ、そんな感じだったのなら、大体の想像はつくけどさ」
(続)
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