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お前の番だ! 446 [お前の番だ! 15 創作]

「僕は自分では親父に話しぶりが似ているとは、ちっとも思わないのですがね」
「そうでもないと思うわよ」
 あゆみはゆっくり首を横にふりながら万太郎の仏頂面を笑うのでありました。
「ウチの親とどんな話しをしたのですか?」
「ま、万ちゃんの小さい頃の話しとか、色々」
 あゆみはそう云って含み笑うのでありました。
「親父やお袋が、何かとんでもない逸話とか話さなかったでしょうね?」
 万太郎は警戒の色を目に浮かべるのでありました。
「ううん、別に。万ちゃんはオムツがとれるのが遅い子だったとか、頭が大きい子で幼稚園前にシャボン玉をしていて、遠くへ飛ばそうと縁側から身を乗り出し過ぎて、頭が重いから敷石の上に落っこちて額を一針縫う怪我をしたけど、落ちた時も病院で縫われている時もちっとも泣かなかったとか、中学生の夏休みに突然剣道が今より二倍がた強くなりたいからって、山籠もりするとか云い出して裏の山で竹刀を飽かず素ぶりしていたけど、ご飯の時と寝る時はちゃんと家に帰って来て、別に山籠もりでも何でもなかったとか」
 万太郎はあゆみの話しを聞きながらやれやれと思うのでありました。全く無意味な上に余計極まりない事をペラペラと喋る困った両親であります。
「それからそれから、・・・」
 あゆみは尚も続けるのでありました。「学校の帰りに、よく捨てネコとか子犬を拾ってくる子だったとか、ある時ヒヨコを貰ってきて、将来卵を産ませるからとか云って暫く庭で飼っていたけど、成長したらそれが雄の鶏になって仕舞ったとか、それにこれはお兄様から伺ったお話しだけど、高校生の時に大失恋をして俺は自殺するとか云って、一番手軽な方法だからって、一二の三で洗面器に張った水に顔をつけて、苦しくなったらその都度ブハーとか云いながら顔を上げて、ちっとも死ねないと真顔で困っていたとか、まあ、特には、万ちゃんが人に知れたら恥ずかしくなるような事はお話しにはならなかったわよ」
 それだけ披露すれば充分だと、万太郎は大いにげんなりするのでありました。
「誰かの言葉ではありませんが、これで僕も恥多き人生を歩んできたのです」
「ええとそれから、・・・」
「未だあるのですか?」
 万太郎は眉根に皺をつくって眉尻を下げて、情けなさそうな顔をするのでありました。
「誉の陣太鼓、と云う熊本名菓が殊の外好きな子だったって」
「ああ、それですか。で、あゆみさんが買ってきてくれたのですね」
「そう。万ちゃん嬉しい?」
「ええもう、嬉しいやらきまりが悪いやらで、思わず涙が出そうなくらいです」
「それは良かったわ」
 あゆみは万太郎の今の答礼への満足四分と、万太郎のきまりが悪がる様子への面白がり六分の笑いを送って寄越すのでありました。
「ではこのお土産は、後で来間と一緒にいただきます」
(続)
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