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お前の番だ! 444 [お前の番だ! 15 創作]

 ところでそう云えば、あゆみはどうしてあの時、意外にあっさりと追及を止めにしたのでありましょうや。万太郎が有耶無耶の儘に切り抜けようとするのを見越してげんなりしたためか、或いは、万太郎の意中の人等、端から興味がなかった故でありましょうか。
「おや、随分出し惜しみするじゃないですか」
 花司馬教士はそう云ってニヤニヤと笑うのでありました。
「別に出し惜しみしているのではないですが、これは全く個人的な事柄ですから、余り他の人に云いたくないと云うだけですよ」
「そのお相手の方は、折野先生の意中をもう判っていらっしゃるので?」
「それはもう、全く思いも依らないでしょうね。僕の勝手な気持ちと云うだけです」
「折野先生のお気持ちを素直に伝えるには、何かしらの障害があるのでしょうかね?」
 花司馬教士はなかなか追及の手を緩めてくれないのでありました。
「障害はないかも知れませんが、・・・」
 万太郎はそこでふと考えるような顔をするのでありました。「いや、矢張りあるかも知れません。お互いの立場と云うものを考えれば」
「お互いの立場上、思慕の情を表明するのに障害があるかも知れない方、ですか。・・・」
 花司馬教士は腕組みして首を傾げるのでありました。これ以上、曖昧にであれその追及に言葉を返していると、竟に知られる恐れがありそうであります。
「まあ、この話しはこれくらいで良いじゃありませんか」
「若し何でしたら、自分が一肌脱いでも構いませんが?」
「いやいや、それは真っ平遠慮申し上げます」
 万太郎は慌てて両手を花司馬教士の目の前で横にふって見せるのでありました。「そんな事をして、相手の方にご迷惑がかかるといけませんから」
「ほう、折野先生の意中を知られると迷惑がかかるかも知れない方、ですか?」
 花司馬教士は腕組みした儘で、上目で万太郎の顔に見入るのでありました。
「いやまあ一般的な意味に於いて、思いも依らないヤツが自分に思慕の情を抱いている事を知ると、女性は逆に気持ちを後退りさせて仕舞うだろうと云う懸念です。そうなると今までスムーズだった関係もギクシャクして仕舞いますし、それは拙いですぅから」
 万太郎はしどろもどろにそんな説明をするのでありました。
「いや、それは判りませんよ。瓢箪から駒、と云う言葉もありますからねえ」
「それにしてもご厚意には感謝しますが、一肌脱ぎの件はきっぱりお断りします」
「何だか嫌に気持ちが消極的ですなあ。折野先生をそこまで及び腰にさせる立場の人、となると、さて、誰がいるだろう?」
 花司馬教士はまたもや腕組みの首傾げのポーズをするのでありました。
「花司馬先生、もう勘弁してくださいよ」
 万太郎は花司馬教士に合掌するのでありました。
「そうやって折野先生に拝まれて仕舞うと、ま、今日のところは引き下がらざるを得ませんかな。しかしそこまで聞けば、考えを回らせば誰だか目星がつきそうだな」
(続)
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