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お前の番だ! 440 [お前の番だ! 15 創作]

 若しそうであるのなら、万太郎はあゆみに対して申しわけないような心持ちがするのでありました。しかし一方で、何もこれと云って悪い事はしていないと云うのに、どうして自分が済まながらなければならないのか、自分でも良く判らないのでもありました。
 実家の姉もそうでありますが、兎角女なんと云う生きものは万太郎如きの手には余る生きもののようであります。然りながら、面倒臭いと云って一顧だにしないでおれるものでもないところが、実に以って困った生きものと云うところでもありますか。
 奥さんに猛烈アタックを敢行したと云う花司馬教士や、早々に香乃子ちゃんとの結婚を決めて内弟子を辞した良平なんかは、女なる生きものに対して一体どういう了見であったのでありましょう。一度真剣に、そのご高説を伺ってみたいものであります。
 夕風が吹いて、公園の中の未だ葉を落とした儘の木々がさざめくのでありました。風はあゆみの方から吹くのでありましたが、その風にもう、あゆみの体の熱感は乗ってはこないのでありましたし、その代わりに、そこはかとないあゆみの髪から漂ってくるのであろう芳しい香りが、万太郎の鼻腔を嫌に心地良く擽るのでありました。

   ***

 万太郎が一週間程の東北方面への出張指導を終えて総本部道場に帰ってくると、入れ替わるように是路総士があゆみを連れて、こちらは九州方面に指導と審査を兼ねて出かけて行くのでありました。矢張り一週間程の予定でありましたか。
 万太郎が総本部を留守にしている間に、特段の問題は何も発生してはいないのでありましたが、花司馬教士から興堂派時代から内弟子をしていた板場が興堂流を辞めたと云う話しを聞くのでありました。竟に威治宗家に愛想尽かしをしたのでありましょうか。
「いえね、板場から不意に連絡がありましてね、久しぶりに神保町の居酒屋で逢ったのですが、その時に本人から聞いたのですよ」
 稽古が終わって鳥枝範士も帰った後の師範控えの間に居残って事務仕事をしている万太郎に、花司馬教士は話し始めるのでありました。
「そうですか。板場さんが辞めたのですか」
 万太郎は花司馬教士の方に顔を向けるのでありました。「板場さんは生真面目な人で、亡くなられた道分先生への義理立てから興堂流に残ったのでしょうから、早晩、そうなるのではないかと考えてはいましたが。・・・そうですか、矢張り辞められましたか」
「板場としては何とか曲りなりにでも、隆盛だった嘗ての興堂派のように、今の興堂流を再興したいと頑張ってきたのでしょうが、竟に疲れ果てたのでしょう」
「でも、この頃は興堂流の名前を良く風評として聞くようになったではありませんか」
 確かに第一回道分興堂杯争奪自由組手選手権大会以降、興堂流は格闘技界の新興勢力としてそれなりに世間に認知されたようで、その消息を万太郎は時々耳にすることがあるのでありました。まあ、好悪両方の世評としてではありますが。
「まあそれはそうですけど、・・・」
(続)
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