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お前の番だ! 438 [お前の番だ! 15 創作]

「いやまあ、云わぬが華、と云う事にして貰うわけにはいきませんかねえ?」
「あたしの知っている人?」
 万太郎のやんわりした回答拒否をあゆみは無視するのでありました。
「ええまあ、そうなりますか、ねえ」
 万太郎は苦った顔で応えるのでありました。
「門下生とか、道場関係の人?」
「まあ、良いじゃないですか、僕の事なんかは」
 万太郎は有耶無耶にこの話しを終わろうとするのでありました。
「あ、そう。あたしには云いたくないわけ?」
「特にあゆみさんに話したくないのではなく、こう云った話しは苦手なのです、僕は」
 あゆみはがっかりしたような顔で万太郎を見るのでありました。万太郎の脚に触れていたあゆみの膝が虚しく離れるのでありました。
「それじゃあ、万ちゃんの好みはどんなタイプの人?」
 少しの沈黙を挟んで、あゆみは質問の色調を変えるのでありました。なかなかにしつこく食い下がってくるようであります。
「特にこんなタイプ、と云うのはありませんねえ。その時々で好きになった人がつまり好みのタイプと云うのか、ま、そう云った按配です」
「ああ成程ね。でもあたしが万ちゃんを見ていて考えるには、・・・」
 あゆみはそう云いながらキラキラと瞳を輝かせるのでありました。あゆみも女一般の内の紛れもない一人であって、こう云った類の話しが結構好きなのでありましょうか。
 思えば郷里の姉が高校生の頃、お前はこれこれこう云った男だから、こう云うタイプの女の人と将来つきあう方が色々好都合であろう等と、聞きもしないのにあれこれ余計な助言を、何かにつけ折さえあればしてくれるのでありましたか。今のあゆみの瞳のキラキラは、そう云う時の姉のものと同じ種類に見えるのでありました。
 人が将来どのような女性とつきあおうが姉の知った事ではないと、万太郎はその都度姉のお節介を疎ましく思うのでありました。しかし姉は無関心を装う万太郎に全く頓着する事なく、何だかんだと多言を以って彼を諭すのでありましたか。
 あゆみも多分、そんな姉と同種の親切心(!)の心算なのであろうと万太郎は考えるのでありました。しかし相手があゆみであるから姉の時と同様に無愛想に「やぐらしか!」と、一言を以って退散出来ないのが万太郎としては何とも困ったものであります。
「ねえ、万ちゃん、ちゃんと聞いてる?」
 あゆみがまた万太郎の鼻の頭を指先で弾くのでありました。「また黙っちゃって。今日の万ちゃんは何時もと違って少し変よ」
「ああ、勿論ちゃんと聞いていますよ」
 万太郎は真顔を作って頷いて見せるのでありました。
「だからね、今も云ったように、万ちゃんはどちらかと云うと姉さんタイプの女の人の方が似合うと思うのよ。自分でもそう思わない?」
(続)
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