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お前の番だ! 431 [お前の番だ! 15 創作]

「平日なら夕方の専門稽古と夜の一般門下生稽古の間の時間、土日は午後稽古と夕方の専門稽古の間の一時間を考えているんだけど」
 あゆみも猪口を空けるのでありました。すかさず万太郎は徳利の酒を是路総士とあゆみの猪口に注ぎ入れるのでありました。
「ふうん。それで指導の陣容は? まさか鳥枝さんを子供に宛がうわけにはいくまい」
 是路総士はそう云ってから思わずと云った風に少し吹くのでありました。確かに鳥枝範士の鬼瓦のような顔は子供相手には到って不向きでありましょう。
「あたしと万ちゃん、それに花司馬先生と注連ちゃん、助手としてその日に居る準内弟子を動員するの。少なくとも三人以上で稽古を看る事にするわ」
「私は員外と云う事かな?」
 是路総士は徳利を取って万太郎の方にそれを差し出すのでありました。
「そうです。総士先生と鳥枝先生と寄敷先生は大人の稽古に専念していただきます」
 万太郎は両手で是路総士の酌を受けながら頷くのでありました。
「ああそうか。しかしこれで私も、なかなか子供の扱いは上手いのだけれどなあ」
 是路総士はそう呟いて笑った後、急に頬の笑いを消し去って表情を厳めしく作り直すのでありました。それはそんな事を竟口走ったものの、それで万太郎とあゆみの少年教室創設案に自分が既に与したと取られるのを警戒して、でありましょう。
「総士先生がお望みとあらば、指導陣に加わっていただいても良いのですが」
「いや、それはまた別の話しとして」
 是路総士はそう云って一つ咳払いをするのでありました。「それで、大人でもなかなか習得出来ない常勝流の、どう云う辺りを子供に教える心算なんだ?」
「大雑把に考えているのは、先ずは正坐して五分間、微動もしないでいられるようにします。それから座礼や立礼の仕方をやって、その後に基本動作と云う事になります」
 万太郎が是路総士の猪口に酒を差しながら云うのでありました。
「成程ね。先ずは礼儀を学ばせると云う事かな」
「そうです。基本動作の後は、比較的構造の簡単な基本の組形を十本選んで、それを習得させます。と云っても要求する水準は大人と違って、随分低いところを狙いますが」
「仕手と受けが協力して組形の手順が滞りなく出来れば可、と云うところかな?」
 万太郎は頷いて見せるのでありました。
「勿論組形稽古上の仕手と受けの役割とか、難しい事を云っても判らないでしょうから、取り敢えずは仕手と受けの協調を習得する事とします」
「乱稽古とか準乱稽古はやらせないのだな?」
「それはやらせません。そう云ったある種のゲーム性のある事はさせません」
「しかしゲーム性がある方が面白いから、その方が意欲的になるのではないのか?」
「そうかも知れませんが常勝流の稽古ですから、先ずは組形の稽古が最優先です。技が不完全な子供に乱稽古をやらせても、無意味だろうし危険でもありますから」
「堅苦しい稽古ばかりでは、子供は厭きて仕舞うのじゃないか?」
(続)
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