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お前の番だ! 430 [お前の番だ! 15 創作]

「少年教室入門第一号予定の剣ちゃんも、お姉ちゃん達を助けてよ」
 大人の話しに退屈そうにしていた剣士郎君にあゆみが顔を向けるのでありました。剣士郎君は突然話しをふられて面食らったような顔をするのでありましたが、頼られているようだと云うのは何となく判って、生真面目な顔をして厳かに頷くのでありました。
 少年教室創設の案は是路総士に既に話してはいるのでありました。万太郎とあゆみからその話しを聞いた是路総士は、当初余り乗り気ではない顔をするのでありました。
 常勝流の技の理合いが子供には理解出来ないであろうと云うのが、積極的に賛意を示さない第一の理由のようでありましたか。それに常勝流の稽古法は、あくまでも一定程度に体の出来た大人を対象に創られたものであるから、筋力も胆力も未だ水準に達していない子供にそれを適用するのは、先ず困難であろうと云う考えのようでありました。
「勿論本格的な稽古を指導しようと云うのではないのよ」
 あゆみが是路総士の猪口に酒を注ぐのでありました。稽古が終わってからの何時も通りの遅い夕食後の一時に、来間が内弟子部屋に引き上げてから、万太郎とあゆみが母屋の居間に残って是路総士の酒の相手をしながらの会話でありました。
「それでも常勝流として教える以上は、少しは理を理解して貰わなければ困る。しかし小学生には常勝流の技の成り立ち等は、いくら平明に説明してもチンプンカンプンでしかなかろうよ。この私にしたって未だ解明出来ていない技法の微妙な綾があると云うのに」
「それは本格的な稽古は確かに無理よ。でも体力を作るとか運動感覚の養成とか、礼儀や我慢とかの躾とか、子供に常勝流を教える効用と云うのはあれこれあると思うのよ」
「それなら、ずうっと以前からから子供を教えている柔道やら剣道やら、それに空手とか合気道とかに任せておけば良いんじゃないか? そう云うところの方が子供を扱うノウハウもあるだろうし、態々我が常勝流が子供を教える対象にする必要はないだろうよ」
「しかし、将来に亘っての門人の確保と云う観点からすると、子供の頃より常勝流に親しんで貰うのも、なかなかに良い手法だと思いますが」
 万太郎は徳利を取って卓上に置かれた是路総士の猪口に、その後にあゆみの手にした儘の猪口に酒を差しながら云うのでありました。
「しかしまあ、子供本人が求めて常勝流を学ぼうとするようなケースは極めて稀で、大概は親御さんの云いつけで渋々、自分では何だか判らない儘に道場に通わされると云うのが実態だろうよ。そうやって通っていた子供が、その後大人になってから、他に色々面白そうな運動を知った上でも常勝流を続ける気になるかどうかは、私には大いに疑問だ」
「十人の子供がいて、その内の一人か二人でも続ける気になってくれれば、僕は御の字だと思います。長い時間の中では、一時の微々たる数も積もれば一定数になりますから」
「ま、楽観論だな。それより大人の入門者を増やす事を考える方が、話しは早い」
「大人の門下生の方は興堂派からの移籍で、今現在ごった返しています」
 万太郎の小理屈に是路総士は口の端に一笑を浮かべるのでありました。
「ところで、子供の稽古時間帯はどう取る心算でいるのだ?」
 是路総士はそう訊いて猪口の酒を空けるのでありました。
(続)
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