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お前の番だ! 428 [お前の番だ! 15 創作]

「僕も何か手伝います」
 剣士郎君が居間の方に行くと、その後ろに万太郎が立って申し出るのでありました。
「ああ、万ちゃんは居間の方に座っていて。もう用意も終わるから」
 花司馬教士の奥さんがそう云って万太郎の申し出をやんわり断るのでありました。しかし姉弟子のあゆみにだけ働かせておいて、弟分である自分が楽を決めこむわけにもいかないと、万太郎は花司馬教士の奥さんが持ち上げた鶏の唐揚げとポテトサラダの皿を半ば強引に受け取って、剣士郎君の後に続いて和室の方にそれを運ぶのでありました。
「俺も何かしようか?」
 あゆみと万太郎が働いているのに自分だけが何もしないのは申しわけないと、律義な性分の花司馬教士も奥さんにそう訊くのでありました。
「じゃあ、ビールとコップを運んで」
「押忍。承りました」
 花司馬教士は冗談と云う風ではなく、行きがかりからかしごく真面目な面持ちで、竟奥さんにそう返事するのでありました。あゆみが思わずクスッと笑うのでありました。
「豪華版ですね」
 卓の上に載った皿の数を見ながら万太郎が云うのでありました。
「大食らいの万ちゃんが来ると云うので、奥さんが大いに腕を奮ってくれたのよ」
 あゆみが横から云うのでありました。
「ああそれはどうも、面目ありません」
 万太郎が奥さんの方にお辞儀して見せるのでありました。
「ケーキは?」
 剣士郎君が横に座ったお母さんに訊くのでありました。
「ケーキは後よ。ご飯が済んでから」
「ふうん」
 剣士郎君は最初にケーキが出てこないのが不満そうでありました。
「じゃあ、取り敢えず乾杯といきましょう」
 花司馬教士がビール瓶を取り上げて、あゆみと万太郎にグラスを取るよう促すのでありました。剣士良君は奥さんにオレンジジュースを注いで貰っているのでありました。
「剣ちゃんはこの春から小学校に行くのね?」
 乾杯後にあゆみが剣士郎君に云うのでありました。剣士郎君はジュースの入ったグラスを両手で持って、それに口につけた儘あゆみの方に一つ頷いて見せるのでありまいた。
「小学校は何処に在るの?」
 万太郎がそう訊くと剣士郎君は首を傾げて見せるのでありました。
「小学校までは結構遠いのよね」
 花司馬教士の奥さんが剣士郎君の代わりに応えるのでありました。「仙川駅を越えて神代高校のもっとずっと先だから、この家から大人の脚でも十五分以上はかかるかしらね」
「子供だと二十五分以上かな」
(続)
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