お前の番だ! 424 [お前の番だ! 15 創作]
鳥枝範士が事情を紹介するのでありました。
「寄らば大樹の陰、と云う辺りを狡賢く利用しているわけだ。まあ、今となってはそんなに大樹でもなさそうだけれどなあ、興堂流は」
「それに威治宗家の言は明らかに間違っていて、来たいと云うのなら、総本部としては今からでも受け入れるのに別に何も吝かではないですから」
万太郎が口を挟むのでありました。
「要するに自立出来る支部は疾うに自立して、移籍すると決めた支部は疾うに移籍したのだから、今の興堂流には、自立するには力不足で、それに移籍すると決断するにはその覚悟もない、要するに頼りない弱小支部ばかりが残っていると云う事だろう」
寄敷範士が口の端に皮肉な笑いを湛えるのでありました。
「その支部の弱みにつけこんで、威治が金を搾り取っていると云う構図だな」
鳥枝範士が手に持った猪口をグイと空けるのでありました。
「ところでその選手権大会での試合そのものは、どんな風だったのかしら?」
あゆみが話題を少しずらすのでありました。
「投げ技なんか殆どない、突き蹴りばかりの、まるで空手の試合のようだったと云う話しです。指が自在に動かせる、手甲をガードするようなグローブを嵌めて試合するのですが、防具はそれだけで、顔面や胴は素の儘だし脛当も使用しないそうです」
今まで殆ど言を発する事のなかった来間が解説するのでありました。
「それは益々、或る空手会派の試合のようだな」
これも今まであまり発言がなかった是路総士が、そう感想を述べるのでありました。
「それにルールが色々小難しかったようです」
花司馬教士が来間の発言の後を引き取るのでありました。「顔面への打撃はダメだとか、下腹部への攻撃も不可、寝技も原則的になし、関節技は、順は良いが逆はダメとか」
関節技の、順、とは関節の自然に曲がる方向に力を加える事、逆、とは曲がらない方向に曲げようとする事であります。常勝流の技にも色々な部位の関節技はあって、その解説等にこの、順、逆、と云う言葉を使用する場合もあるのでありました。
「元々投げ技や固め技で勝負が決まると云う臆断はなかったようで、突き蹴りに関するルールがあれこれ細かく決められていたようです」
来間が花司馬教士の言に補足するのでありました。
「それでは常勝流では全くないな」
寄敷範士は顔を顰めて見せるのでありました。
「投げや固めに熟達していない者が試合うと、往々にして突き蹴り勝負になる。これは突き蹴りと云うのは技の仕組みが簡素で、見た目も強弱が明快だからだろうな。常勝流でも体術よりも剣術の方に、そう云う要素が結構ありはするな」
是路総士が云うのでありました。
「興堂流には空手の経歴を持つ指導員もいれば、柔道の経歴を持つ指導員もいると聞いていたが、そこでは柔道派は影が薄かったと云う事か?」
(続)
「寄らば大樹の陰、と云う辺りを狡賢く利用しているわけだ。まあ、今となってはそんなに大樹でもなさそうだけれどなあ、興堂流は」
「それに威治宗家の言は明らかに間違っていて、来たいと云うのなら、総本部としては今からでも受け入れるのに別に何も吝かではないですから」
万太郎が口を挟むのでありました。
「要するに自立出来る支部は疾うに自立して、移籍すると決めた支部は疾うに移籍したのだから、今の興堂流には、自立するには力不足で、それに移籍すると決断するにはその覚悟もない、要するに頼りない弱小支部ばかりが残っていると云う事だろう」
寄敷範士が口の端に皮肉な笑いを湛えるのでありました。
「その支部の弱みにつけこんで、威治が金を搾り取っていると云う構図だな」
鳥枝範士が手に持った猪口をグイと空けるのでありました。
「ところでその選手権大会での試合そのものは、どんな風だったのかしら?」
あゆみが話題を少しずらすのでありました。
「投げ技なんか殆どない、突き蹴りばかりの、まるで空手の試合のようだったと云う話しです。指が自在に動かせる、手甲をガードするようなグローブを嵌めて試合するのですが、防具はそれだけで、顔面や胴は素の儘だし脛当も使用しないそうです」
今まで殆ど言を発する事のなかった来間が解説するのでありました。
「それは益々、或る空手会派の試合のようだな」
これも今まであまり発言がなかった是路総士が、そう感想を述べるのでありました。
「それにルールが色々小難しかったようです」
花司馬教士が来間の発言の後を引き取るのでありました。「顔面への打撃はダメだとか、下腹部への攻撃も不可、寝技も原則的になし、関節技は、順は良いが逆はダメとか」
関節技の、順、とは関節の自然に曲がる方向に力を加える事、逆、とは曲がらない方向に曲げようとする事であります。常勝流の技にも色々な部位の関節技はあって、その解説等にこの、順、逆、と云う言葉を使用する場合もあるのでありました。
「元々投げ技や固め技で勝負が決まると云う臆断はなかったようで、突き蹴りに関するルールがあれこれ細かく決められていたようです」
来間が花司馬教士の言に補足するのでありました。
「それでは常勝流では全くないな」
寄敷範士は顔を顰めて見せるのでありました。
「投げや固めに熟達していない者が試合うと、往々にして突き蹴り勝負になる。これは突き蹴りと云うのは技の仕組みが簡素で、見た目も強弱が明快だからだろうな。常勝流でも体術よりも剣術の方に、そう云う要素が結構ありはするな」
是路総士が云うのでありました。
「興堂流には空手の経歴を持つ指導員もいれば、柔道の経歴を持つ指導員もいると聞いていたが、そこでは柔道派は影が薄かったと云う事か?」
(続)
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