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お前の番だ! 419 [お前の番だ! 14 創作]

「そのテレビ局のお偉いさんは、今は理事をしていないだろう?」
 鳥枝範士が訊くのでありました。
「そうですね。もう随分前に辞められました。だから鳥枝先生はご存知ないでしょう。その方が辞められたと同時に、局関係の門下生達もすっかりいなくなって仕舞いましたね。しかし会長との繋がりは随分濃いようで、恐らく会長が話しを持っていってそれで今回の威治宗家のテレビ出演となったのでしょう。番組としては元からそう云う企画があったのかも知れませんが、屹度その中に職権で威治教士の出演を捩じこませたのでしょうね」
「成程ね、そう云う経緯なら威治の唐突のテレビ出演も頷けるか。それにしてもその推察が当たっていれば、あの会長もちゃんと、会長としての仕事はしているわけだ」
 鳥枝範士は皮肉な笑いを口の端に浮かべるのでありました。
「テレビの影響力は絶大だから、ひょっとしたら今後、これを契機に興堂流に入門者がドッと押し寄せるかも知れませんね」
 万太郎がそう云う感想を述べるのでありました。
「それは一理あります、折野先生」
 花司馬教士はそう云って万太郎を見るのでありました。「前の道分先生の特集番組でも、これも深夜の時間帯だったですが、放送後の三か月は入門者が、普段の月の二倍程ありましたから。まあ、すぐに波は引いて、その中で結局数人しか残りませんでしたがね」
「数人残ったと云うのは、道分先生にそれだけの実質があったためだ。要するに実質がないなら、一時的にドッと沸いても単なる儚い徒花で、誰も居なくなるだけの話しだ」
 鳥枝範士はそう云ってまた口の端に皮肉の笑いを浮かべるのでありました。
「しかし徒花でも、今の威治宗家としては嬉しいでしょう」
 花司馬教士がしごく真面目な顔でそう云うのでありました。
「そりゃそうだ。凋落の一途の途中で少し息がつけるのだからな。しかしその一息をあの威治の事だからまた自分の良いように勘違いして、お目出度く嘗ての賑わいの復活と有頂天になるのだろうな。今からその了見違いの得意満面が見えるようだ」
 確かに、暫くは殆ど鳴りを潜めていた興堂流の消息が、この頃俄かに頻繁に万太郎の耳にもあれこれ届くようになるのでありました。曰く、入門者が増えて葛西の新道場が手狭になったのでまた神保町へ道場を移すらしいとか、独立を指向した旧支部が興堂流の傘下に戻ったとか、総本部に移った支部も大挙して興堂流に戻ろうとする動きがあるとか、威治宗家がもうすぐ興堂流の本やらビデオを賑々しく出すとか、出さないとか。
 この内、総本部に移った支部が興堂派に戻ると云うのは、これは全く根も葉もない噂以上ではないのでありましたし、道場を再び神保町に移すと云うのも、まあそう云った威治宗家の志望はあるのかも知れませんが、当面は実現しないようでありました。しかし、興堂流が前に比べれば殷賑になったのは事実でありましたし、独立を選んだ旧支部が二三復帰したのも事実で、それにまた新しい支部も幾つか増えてもいるようでありました。
 これは鳥枝範士の云う徒花でありましょうか。それとも威治宗家が潮目を的確に捉えて興堂流が勢を再び盛り返す、なんと云う事も考えられなくもないかも知れません。
(続)
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