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お前の番だ! 409 [お前の番だ! 14 創作]

「まあ、折野の尻をどっちが掻こうが、それはお前達に任せるから、花司馬、一つよろしくあゆみと折野と協力して総本部を盛り立ててくれ」
 鳥枝範士もやはり笑いの余波を頬に宿した儘で云うのでありました。
「押忍。あらん限りの力を以って努めさせていただきます」
 花司馬教士は鳥枝範士にも格式張ったお辞儀するのでありました。
「花司馬先生、これからよろしくお願い致します」
 これはあゆみの言葉でありますが、そう云う傍から、先程の笑いが再びこみ上げてきたようで、語尾が笑い混じりと化して仕舞うのでありました。
「あゆみ先生、よろしくお引き立てください」
 花司馬教士はあゆみの目を見て慎に真摯な面持ちで云うのでありましたが、花司馬教士と視線があった途端、あゆみがすぐにまた我慢出来ずに吹き出すのでありました。花司馬教士はあゆみの制御不能らしき笑いの発作に困じ果てて、頭を掻くのでありました。
「それから、旧興堂派の多くの支部が今回のゴタゴタに窮して、総本部に援助を求めてきているのだが、その辺の事情は花司馬さんも既にご存知だと思います」
 是路総士が表情と話頭を改めるのでありました。
「押忍。鳥枝先生からも、旧知の支部の連中からもあれこれ聞いております。直接自分の方に相談をしてくる支部長もおりました」
「総本部の支部との兼ねあいもあって、おいそれと無条件に受け入れると云うわけにはいかんので、今折野とあゆみに調整させているところです。こちらの方も二人の力になってやってください。花司馬さんは興堂派の支部長さん達とは旧知なのですからな」
「その件は自分も気になっているところで、これも誠心誠意努めさせていただきます。自分が関わる事で難事がすんなりと決着するとすれば、喜ばしい事でありますから」
「よろしく頼みます。委細は後程、二人と打ちあわせてください」
「押忍。承りました」
 花司馬教士は是路総士に向かって深く頭を下げるのでありました。
 と云う事で前に述べた如く、花司馬教士は万太郎とあゆみの助力に進んで奔走してくれるのでありました。花司馬教士の人望と旧興堂派内に於ける指導力は、威治筆頭教士とは比べものにならない程絶大で、それにその花司馬教士自らが総本部に移ったと云う事実の効果は、旧興堂派支部の不安を取り除く上で大きく作用するのでありました。
 さて、花司馬教士の道場における謹恪な態度は、万太郎やあゆみに不要な負担をかけまいとしてか、実に頭の下がるものがあるのでありました。花司馬教士は万太郎とあゆみに対するに、先生、の尊称を忘れず、如何にも遜った物腰で接するのでありました。
 あゆみは前からそう呼ばれていたので然程抵抗はないようでありましたが、万太郎は自分より歳上で修業歴も長い、前から心服していたその人から急に慇懃な態度を取られる事に大いに閉口するのでありました。万太郎は花司馬教士に、兄弟子弟弟子の関係は絶対だと云うのなら常勝流の中では自分の方が後輩に当たるのだし、余りの遜りは困ると申し入れるのでありましたが、持ち前の頑固さにあっさり撥ね返されるのでありました。
(続)
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