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お前の番だ! 408 [お前の番だ! 14 創作]

 結局、見習い、と云うわけにもいかず、教士、と云うところで両者は折りあいをつけるのでありました。これは万太郎と同格、筆頭教士のあゆみの下、という席次であります。
 しかもあゆみの総本部道場長、万太郎の道場長補佐と云う役職を加味すれば、平役の花司馬教士は万太郎よりも格下に位置する事になるのであります。花司馬教士は出来るなら教士補の来間の下を希望するくらいの心算だったようでありますが、逆にそれは平に勘弁をと、是路総士と鳥枝範士に丁重に懇願されているのでありました。
 律義で四角四面を尊ぶ如何にも花司馬教士らしい態度だと、障子戸を背にして控えている万太郎は、その遣り取りを不謹慎ながら微笑ましく聞いているのでありました。万太郎の横に座っているあゆみも、窺えば、口元が綻んでいるのでありました。
 花司馬教士が不意に万太郎とあゆみの方へ体ごと向き直るのでありました。花司馬教士は両手を畳に着いて、前屈みの姿勢で二人に対座する形を取るのでありました。
「あゆみ先生、それに折野先生、どうぞこれからよろしくご教導ください」
 花司馬教士の格式張った座礼に、万太郎とあゆみはオロオロと急ぎお辞儀を返すのでありました。万太郎は、折野先生、等と初めて花司馬教士に呼ばれて、無闇に尻の辺りがむず痒くなるのを抑えられないのでありました。
「あのう、花司馬先生、・・・」
 万太郎は頭を恐る々々起こしてから、花司馬教士の顔を仰ぎ見るのでありました。「出来ましたら呼び捨てか、せめて今まで通り君づけくらいで勘弁しては貰えませんか?」
 万太郎が消えも入りそうな声でそう云うのを鳥枝範士が吹き出しそうな顔で見ているのが、万太郎の目の端に映るのでありました。
「いやいや、それはいけません。折野先生は総本部に於いては自分の先輩格に当たりますので、こうして総本部に席を戴いた限りは、弟弟子の了見で努めさせていただきます」
 花司馬教士は揶揄でも何でもなく、断固真面目にそう云ってまたもや格式張って万太郎に座礼するのでありました。万太郎はあたふたと再度礼を返すのでありました。
 どうにも困った事になったと、万太郎は心中で唸るのでありました。花司馬教士の頑固一徹の、しかも生一本の形式重視を持て余しているのであります
「しかし、花司馬先生にそう呼ばれると、僕の尻が痒くなって仕方がありません」
「いや、尻が痒ければ弟弟子の務めとして、何なら自分が掻かせて貰いますが」
「いや、そればかりはどうぞ真っ平ご容赦ください」
「いやいや、兄弟子のためなら何でもするのが弟弟子たる者の覚悟です」
「いやいや、何と云いますか、それでは僕の立つ瀬がないと云うもので、それに第一、僕の尻のどの辺りが痒いかは、本当のところは僕にしか判らない事でもありますから」
 この万太郎と花司馬教士の遣り取りを聞きながら、先ずあゆみが堪え切れずに口を両手で押さえて吹き出すのでありました。それを契機に是路総士も鳥枝範士も大笑するのでありましたが、万太郎と花司馬教士の二人は笑う三人を無表情に眺めるのみでありました。
「花司馬さんと折野は、この先良いコンビになりそうだな」
 笑い収めた是路総士が、未だ口の端に笑いの残滓を留めてそう云うのでありました。
(続)
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