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お前の番だ! 403 [お前の番だ! 14 創作]

「長年、道堂派と云い慣わしてきたから、どうもしっくりこないね」
 寄敷範士が、こちらは他意なく笑うのでありました。
「ま、興堂流だか荒唐流だか知らないが、広島と岡山も徳島からも一緒に三下り半を食らうとなると、如何にも体裁が悪かろう。そればかりではなくて痛手でもあろうが、それでも只管無愛想を決めこんで慰留もしないのは、如何にも威治のやる事らしい」
 鳥枝範士が鼻を鳴らして見せるのでありました。
「その三支部ばかりじゃなくて、これから他にも離脱する支部が出るんじゃないかしら」
 あゆみが他人事ながらも心配顔で云うのでありました。
「ま、確実に出るだろう。特に地方の古くからある支部は、挙って離脱するかも知れんな。道分先生の古い門弟達は、その後継に威治を総帥として担ぐ気にはなかなかなれないだろう。道分先生と威治とじゃあ、存在感も信頼感も較べようもないからなあ」
 寄敷範士があゆみの心配顔をより陰らせるのでありました。
「興堂流から離れた支部がウチに所属を求めてきたら、悉く受け入れるのですか?」
 万太郎がコーヒーカップを受け皿に戻しながら訊くのでありました。
「そうせざるを得ないだろう。頼ってきたのに断るわけにもいくまい」
 寄敷範士がコーヒーカップを持ち上げながら云うのでありました。
「八王子の洞甲斐さんみたいな人が所属を求めてきた場合、どうされるのですか?」
「うーん。瞬間活殺法の洞甲斐大先生か。実際は、それはないとは思うが。・・・」
 寄敷範士は困惑顔をするのでありました。
「そんな類はきっぱりと断る」
 鳥枝範士が横から云うのでありました。「当然、今までやってきた稽古の実績や指導者の器量と技量は考査する。ウチに移るに当たっての心懸けもな」
「例えば八王子や新宿みたいに、同じ地域にウチの支部と向こうの支部が両方ある処があるじゃないですか。そう云う場合でも受け入れるのですか?」
「八王子や新宿のように大都市では支部が二つあっても構わんだろうが、地方の狭い地域でとなると、そりゃ確かにあれこれ問題が出そうだな」
 鳥枝範士は腕組みをして小首を傾げるのでありました。
「大都市でも、同じ域内で向こうの支部がウチの看板を急に上げたなら、元からあるウチの支部の方はあんまり面白くないのではないでしょうか?」
「その辺は調整が必要になるだろうな。興堂派の、いや元い、興堂流のゴタゴタにウチの支部は全く無関係なのだから、それが不利益を被るとなると申しわけない。そうかと云って、所属を求めてきたのに無下に断るわけにもいかんからなあ」
「一つ折野とあゆみで、その辺の調整法を考えておいてくれ。誰が考えても妥当でどこからも文句の出ない、如何にもすっきりとした方法を、な」
 寄敷範士が依頼すると云うよりは、そう命じるのでありました。
「お、押忍。承りました」
 万太郎はそう返事するのでありましたが、大いに悩まし気な顔になるのでありました。
(続)
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