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お前の番だ! 400 [お前の番だ! 14 創作]

「陰険なナルシシストで人が悪いし食えないのが武道家一般なのですか?」
「ま、そうかな。相手に対する優恤がないと云う点で、人が悪いし始末も悪い」
「だから武道では、礼容とか思い遣りとかを特に厳しく云い募るのでしょうか?」
「そう云うところが確かにある。人が悪い陰険なナルシシストである武道家は、先ず自分がそう云う性向を有している事を知るところから始まって、次第に相手に対する優恤とか思い遣りとかを考え始める。そこからその人の武道がようやく始まると云える」
 何やら小難しい話しになってきたと万太郎は眉間に皺を寄せるのでありましたが、是路総士の云わんとしているところは反射的に了解出来たような気がするのでありました。実は是路総士は本心で、威治筆頭教士を何とか救いたいと思っているのかも知れません。
 これは頭の中に思いもよらず突然生じた閃きのような思念であって、これまでの是路総士の言葉からは、はっきりとそうだとも何とも万太郎は云えないのでありますが、何やらそんな確信めいた気がするのでありました。まあ、威治筆頭範士の方に救うに足る器量があるかどうかという点は、かなり疑わしいところではありますが。
「総士先生は若先生を、嫌っておられるわけではないのですよね?」
「勿論嫌いではない。道分さんの息子でもあるし、同じ武道を志す者同士なのだからなあ。威治君は子供の時は、あれでなかなか無邪気な可愛らしい少年だったんだぞ」
「確かに、小さい頃は我儘だけど愛嬌のある、憎めない子供でしたなあ」
 鳥枝範士が懐かしそうな顔をするのでありました。
「そうそう、からかうとムキになって怒るけど、何とも愛らしい怒り様でしたな」
 鳥寄敷士も表情を緩めるのでありました。「何時からあんな風になったかなあ」
「高校入試に失敗した辺りから、何やら妙に依怙地で斜に構えるような素ぶりが見え出したかな。学校なんて何処に行こうが大してどうと云う事はないんだが、あいつはそれで挫折した。強すぎる自尊心が現実を上手く噛み熟せなかったのだろう」
 鳥枝範士はそう云ってまた苦い顔になるのでありました。
「武道にしても、自分の力量がクールに測れなかった。だから周りから大抵、大した事がないくせにやけに尊大なヤツだと思われて仕舞う。それがまた自尊心を傷つける」
「すぐに親父さんと比較されるのも、威治を益々頑なにしたんだろうなあ」
 鳥枝範士は顔を顰めて頷くのでありました。「結局、偉大な武道家の子供として生まれたのが、彼奴の不幸の本源だったと云う事になるかな。まあしかし、それを不幸にして仕舞ったのは、実はアイツ自信の所為という事になるのだが」
「総士先生は、若し若先生がこれまでの経緯を悔いて只管援助を求めてきたら、勿論助ける気はおありなのでしょうねえ?」
 万太郎が訊くのでありました。
「それは勿論、そうしてくれるのなら全力で助ける」
 是路総士は口を引き結んできっぱりと云うのでありました。
「しかし、威治はこの先そんな態度には決して出ないだろうよ」
 鳥枝範士が万太郎に諭すように云うのでありました。
(続)
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