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お前の番だ! 398 [お前の番だ! 14 創作]

 礼儀から会長と威治筆頭範士を玄関まで総出で送りに出るのでありましたが、来た時と同様、会長は如何にも尊大な仕草で使った靴箆を万太郎に返すのでありました。
「それじゃあ、これで失礼します」
 会長はふり返って云うのでありましたが、威治筆頭教士の方はぞんざいに中に向かってお辞儀した後は、もう体半分を玄関から外に出しているのでありました。
「常勝流の名称の取り扱いについては、明日とは云わんが、しかし一月以内に連絡してくださいよ。商標として登録してあるから、使用すると云う事になれば今後色々権利上の話しあいが必要になりますからな。使用料を出せ、なんぞと今更云う心算はありませんが」
 鳥枝範士が常勝流の名称が商標登録してある事をそれとなく知らせるのでありました。
「判っていますよ。態々念には及びません」
 会長は無愛想に返答してから背を向けるのでありました。
「ああそれから、田波根増五郎先生によろしくお伝えください。今度また一緒に美味い酒でも飲みましょうと、鳥枝が云っていたともお伝え願えれば有難い」
 田羽根増五郎先生とは会長の本業の方の、属する政党の幹事長の名前でありあました。鳥枝範士から思わぬ大物の名前が出たものだから、会長はふり返るのでありました。
「鳥枝さんは田羽根先生をご存知なので?」
「ええ。田羽根先生は建設畑の大物ですし、随分と昔からのつきあいですかな」
「ああそうですか」
 会長は鳥枝範士を暫し見上げるのでありました。「逢う機会があれば伝えますが、一緒に飲もうとか、そう云う伝言なら私に頼むより自分で電話でもされた方が早いでしょう」
「ああそうですなあ。会長さんにそんな使い走りのような伝言を頼むのは失礼でしたかな。これはうっかりしました。これじゃあワシも威治の事をあれこれ云えませんなあ」
 鳥枝範士はそう云って笑いながら頭を掻くのでありました。会長は苦々し気に鳥枝範士を睨んでから玄関を出るのでありました。
「折野、今の話しあいを見ていてどうだったか?」
 師範控えの間に戻ってから鳥枝範士が万太郎に訊くのでありました。
「そうですね、概ねこちらの方が話しの主導権を握っていたとは思います。まあこちらが呼びつけたのだから、立場からして当然と云えば当然ですが。しかし鳥枝先生は口より手の方が早く出る方だと思っていたのに、案外に雄弁家ですよね」
 本当は雄弁と云うよりは、多弁と云った方が万太郎の実感に合致しているのではありましたが、そう云って先程の威治筆頭範士のようにどやされるのも間尺にあわないと思ったので、万太郎は多少のべんちゃらもこみでそう云うのでありました。
「威治だけなら、もっと怒鳴り散らして徹底的にげんなりさせてやったのだが、会長がついてきたのであれでも多少控えたのだ。しかし会長は如何にも篤実そうな顔をして、相手を立てるような言辞を弄するその裏で、相手を嵌めるような事を色々企むヤツだと聞いていたが、意外にこちらの読んだ通りの反応をする単純な漢のようで、政界の寝業師、とか云う異名程の、得体の知れなさとか懐の奥深さを感じなかったのは些か気抜けしたぞ」
(続)
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