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お前の番だ! 395 [お前の番だ! 14 創作]

「威治君が、総士先生が今云われたようなところを真摯に改めて、今後常勝流の正統な稽古に邁進してくれれば、総本部としては威治君を盛り立てていく用意はあるのです」
 是路総士の言の後に、寄敷範士が発言するのでありました。「古い道分先生のお弟子さんで広島支部の須地賀さんが興堂派からの離脱を決意したのも、その辺りの不安や不満があったからでしょう。今までの流れとは全く趣を異にする独自の方針なんかを、代替わりしたからと云って性急に打ち出さないで、興堂派内が安定するまで、道分先生のやられていた方針を堅持して、もっと地道な流派運営を心がけると云うなら、どうして総本部が後援しない事がありましょうか。総士先生は、要するに、そうおっしゃりたいのです」
「成程ね。それなら将来なら、威治君の新方針を打ち出しても構わないのですね?」
「興堂派が落ち着いたなら、と云うのが大前提です」
 寄敷範士が頷くと是路総士も一緒に頷くのでありました。
「しかしあくまでも、常勝流の流儀を疎かにしない、と云うのも大前提ですな」
 鳥枝範士が云い添えるのでありました。
「ああそうですか。しかしどうも引っかかるのは、同じ常勝流を名乗っているとは云え、全く独立した別会派に対して、どうしてそこまで総本部が介入出来るのですかな?」
 会長の言は、何やら云いがかりめいてくるのでありました。
「同じ常勝流を名乗っている、からですよ」
 鳥枝範士が如何にも無愛想に、さも当然、と云った云い方をするのでありました。
「こちらが常勝流の宗家でいらっしゃるから、興堂派の逐一に対してもあれこれ煩く意見を差し挟めると云う判断ですかな?」
「興堂派にしても常勝流を名乗るからには、当たり前の事でしょう。総士先生を始め我々総本部門下は、常勝流と云う名を惜しむ者達でありますからな」
 鳥枝範士は勿体ぶってそう云ってから胸を反らすのでありました。
「じゃあ、常勝流と名乗らなければ何も云われる筋あいはないのですね?」
 今まですっかり小さくなっていて、そこに存在する事すら忘れられていたような観の威治筆頭範士が、急に顔を起こして、いやにきっぱりとそう云い放つのでありました。
「常勝流を名乗らなければ、勿論我々は何も口出しをしない。これも当たり前だ」
 鳥枝範士は威治筆頭教士を睨むのでありました。しかし威治筆頭教士は、今度は怖じて下を向く事なく、妙に血走った目で鳥枝範士を睨み返すのでありました。
「判りました。それなら今後一切、常勝流を名乗りません」
 威治筆頭範士の声はやや震えているのでありました。
「威治君、まあ待ちなさい」
 会長が慌てて取り成すのでありました。「そう云う事はここであっさりと云うべきではない。後で冷静に考えてみて、それからの判断としようじゃないか」
 会長としては常勝流の名前を使わない事が、興堂派にとって好都合か不都合か俄かには計量出来なかったので、一先ず即答を避けようとしたのでありましょう。会長は窘めた後で、威治筆頭教士の軽率を持て余すように不機嫌な顔をするのでありました。
(続)
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