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お前の番だ! 389 [お前の番だ! 13 創作]

 具体的な方法として、広島支部の加盟届けを受け取った時点で、先ずは威治筆頭範士に総本部に出向くようにと、是路総士名で招請をかけると云うのをきっかけとするようであります。威治筆頭範士が素直に出向けば、この間の興堂派の稽古実態の変更に対して問い質し、別派とは云え常勝流と云う冠を戴く限りは、その無断の変更が常勝流宗家に対して何を意味するのか、不義には当たらないのかどうかを問い質す事になるでありましょう。
 まあ、その時の威治筆頭範士の出方にもよりますが、最終結果的には常勝流の名前の使用を認めないとして、つまり断交を迫り、断交したからには広島支部及びその他の興堂派支部の総本部への移籍を受理する旨通知すると云う手筈であります。勿論総本部としても断交したのでありますから向後一切、興堂派の動静には関知せずと云う事でもあります。
 威治筆頭教士が総本部の剣幕に怖じて招請に応じなければ、先に挙げた幾つかの問い質しが省略されるだけで、結果としては同じ事になるわけであります。威治教士が財団会長やその他の者を代理に立てたとしても、威治教士を相手にするよりは骨が折れるかも知れませんが、しかし結局総本部の意向は何ら変わらないと云う事であります。
 その折、あゆみは威治筆頭範士との陰鬱な経緯があるので、配慮から、同座しないでも構わないとされるのでありましたが、万太郎は総本部道場の運営の実質を担っているのでありますから、その場に必ず立ちあうように命じられるのでありました。まあ、大いに気の重い事ながら、万太郎はそれも自分の職分と思い切るのでありました。

 威治筆頭範士は財団会長と伴に総本部にやって来るのでありました。威治筆頭範士は終始何やら卑屈で落ち着きのない様子でありましたが、財団会長の方は玄関での挨拶や靴の脱ぎ方、案内のされ方等、言葉つきこそ礼を弁えた風ではありますが、物腰の端々、人を見る目つきに隠し様のない尊大さがあるように万太郎には見えるのでありました。
 二人を師範控えの間に招じ入れると、来間がすぐに奥から茶を持ってくるのでありました。しかし来間が引き取った後も、来間と然して変わらない軽輩と思いなしている万太郎が居残っているのを、威治筆頭範士は訝しそうに見ているのでありました。
「折野は今では総本部の運営に深く携わっているので、ここに同席させます」
 是路総士が威治筆頭範士に静かに云うのでありました。その言葉つきは静かで丁寧ではあるものの、威治筆頭範士に有無を云わさぬ威圧があるのでありました。
 万太郎は威治教士に、それから会長の方にも無表情の目礼を送るのでありました。客人にそのような不謹慎は今まで働いた事はないのでありますが、これは二人が来る前に鳥枝範士から、必要以上の愛想や狎れは示すなと云い含められているからでありました。
「さて今日態々調布まで来てもらったのは、一昨日、威治君のところの広島支部長がウチに尋ねて来て、興堂派を離れたのでウチの方に加盟したいと願ってきたからです」
 早速に是路総士から件の話し通りの詰問が威治教士に投げかけられるのでありました。時候の挨拶やら足労への詫びやら近況の交換やらの和やかな出だしをすっかり省いて、すぐに用件を持ち出す辺りに、是路総士の不快を先ず示したと云うところでありましょうが、果たして威治教士にそれが伝わったのかどうかは判然としないのでありました。
(続)
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