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お前の番だ! 372 [お前の番だ! 13 創作]

「板場君や堂下君はどうしているのかい?」
 是路総士が花司馬筆頭教士の酌を受けながら訊くのでありました。
「板場はあの通り生真面目一辺倒なヤツですから、右往左往しながらも興堂派に留まって、道分先生の後継である威治教士のために尽くそうとしています。堂下は未だ威治教士にもの申す程の経験も実績もありませんから、こちらも取り敢えずは威治教士の威令に背ける筈もありません。二人共、見ていると気の毒になってくるくらいです」
 花司馬筆頭教士は自分が威治教士に受けた気の毒な仕打ちはさて置いて、二人の弟内弟子に同情を寄せるのでありました。
「そうすると、花司馬が辞めるのに同調するわけではないのだな、二人共?」
 鳥枝範士が花司馬筆頭教士に徳利を差し出すのでありました。
「そうでしょうね。第一あの二人に辞められると、今の興堂派は指導の体裁が全く取れなくなってしまします。あの二人だけは、威治教士もまさか辞めさせないでしょう」
「まあ、花司馬は威治に逆らえるが、あの二人は未だ逆らえないからな。道場に残しておいても、威治の目障りになるような存在ではないだろうし。しかし指導の体裁と云う点で云えば、元内弟子落伍者とか、瞬間活殺法の先生とかが来ているのだろう?」
 鳥枝範士にそう云われて、花司馬筆頭教士は苦笑いを浮かべるのでありました。
「まあそうですが、長年に亘って道分先生の薫陶を受けた人達ではありませんから。・・・」
「花司馬君自身はこの後一先ず、具体的にはどうするつもりだい?」
 是路総士がそう云いながら、先程から話しに加わるのを遠慮して、当然同じ遠慮から一向に酒も進まない、座卓の端で小さくなっている来間に徳利を差し出すのでありました。来間は慌てて、先程の鳥枝範士よりも一層謹慎そうに両手で自分の猪口を差し出すのでありましたが、まさか是路総士にお酌して貰うとは思ってもみなかったでありましょう。
「来間、それを飲んだら寿司が遅いから、もう一度電話して催促してこい」
 鳥枝範士が猪口を捧げ持つ来間に命じるのでありました。
「押忍。すぐに電話して参ります」
 来間は一息で猪口の中を干すと、急いで師範控えの間から退出するのでありました。
「さて、花司馬君、興堂派を辞めた後、何か収入の当てはあるのかい?」
 是路総士が花司馬筆頭教士に訊くのでありました。
「いやあ、すぐには。まあ、少しですが蓄えもありますからそれで食い繋ぎながら、折を見て職安にでも行って、自分に出来る仕事を探しますよ」
「しかし花司馬君は妻子持ちだから、そう悠長にはしておられんのだろう?」
「それはそうですが、何とかなるでしょう」
「花司馬は武道以外に何か就職に有用な資格を持っているとか、特技とかあるのか?」
 今度は鳥枝範士が訊くのでありました。
「いや何もありません。しかしこの鍛えた体がありますから」
 花司馬筆頭教士はそう云って自分の胸を拳で一つ打つのでありました。その仕草を鳥枝範士は懐疑的な目で見遣るのでありました。
(続)
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