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お前の番だ! 365 [お前の番だ! 13 創作]

「矢張り稽古態度は戯けた感じでしたか?」
「ま、そうだったな。道分さんも浮世の義理から内弟子に取ったのだが、ほとほと持て余していたようだったな。辞めさせるわけにもいかないと、私に秘かに零していたよ」
「そう云う人やら、先に話しに出た洞甲斐先生やらを興堂派の本部に指導者として招聘するとは、若先生は一体どう云うお心算なのでしょう?」
「さあ、知らん」
 是路総士は全く他人事のように鮸膠もない云い方をするのでありました。その云い草で是路総士は、明らかな不快感を表明していると万太郎は理解するのでありました。
 母屋の食堂に帰ってくるとあゆみと来間がコーヒーを飲んでいるのでありました。万太郎の顔を見た来間がすぐ立つのでありました。
「折野先生もコーヒーを召し上がりますか?」
「ああ、淹れて貰おうかな」
「押忍。承りました」
 来間が立ったその横の椅子に万太郎は腰を下ろすのでありました。
「興堂派の宇津利君が来たんだって?」
 あゆみがコーヒーカップを持ち上げた儘訊くのでありました。あゆみは小金井の方に出張指導に行っていたから、帰ってから来間に聞いたのでありましょう。
「ええ。興堂派を辞めてこちらに移りたいと云う事です」
「じゃあ、入会の手続きに来たの?」
「いや、その相談、と云う感じですかね。未だ向こうを辞めると云う意志表示をしていないからと、今日は稽古を遠慮して帰って行きました。その場で僕は一応入門を許可しましたが、その事を今、総士先生にも申し上げてきたのです」
「噂だけど、何だか興堂派は今、しっちゃかめっちゃかになっているらしいわね?」
「そんな感じみたいですね。花司馬先生が指導の役を干されたり、何やら怪し気な人とか怠け者で内弟子を仕くじった人とかが、その代りに指導者として乗りこんで来たりとか」
「花司馬先生は今、指導をされていないの?」
 あゆみは驚いたようで、コーヒーカップを口に運ぶ手が止まるのでありました。
「そうみたいです。若先生との確執がある、と云うのか、若先生が勝手に確執を抱いているみたいで。花司馬先生は今、道場の受付係をされているみたいですよ」
「何それ。なんて勿体ない!」
 あゆみの語調が少し憤りの色を添えているのでありました。
「若先生一人の了見なら、そんな理不尽なんかは花司馬先生なら一蹴されるのでしょうけど、財団会長がバックについているようで、花司馬先生も無闇に逆らえないようですね」
「だからって、受付をさせる事はないんじゃない?」
「いや、指導を止められているから、花司馬先生自らの意志で受付の仕事をされているようです。興堂派から給金を貰っている以上、何か仕事はしないと申しわけないと云う気持ちからだそうです。如何にも花司馬先生らしい律義なお考えだとは思いますけれどね」
(続)
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