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お前の番だ! 350 [お前の番だ! 12 創作]

「財団の理事会次第だな。理事会で若先生ではなく花司馬先生を前面に押し立てて、これから先の興堂派の体制を整えようと決すれば、まあ多少の混乱とかゴタゴタはあるだろうけど、一先ずは早い段階で落ち着くところに落ち着くだろう。しかし若先生を派の中心に据えようとするなら、支部の離反やら門弟の急激な減少とか云った事が起こるだろうな」
「もう、ひょっとしてそんな兆候があるのですか?」
「あるね。門下生の中にも若先生が興堂派の長になるんなら辞める、とか云う者も前から多かったし。俺だってそうなれば、先ず間違いなく愛想尽かしするよ」
 良平は目方の言を聞いて深刻そうな顔で腕組みするのでありました。
「まあ、それだけ道分先生が偉大だったと云う事でしょうね」
「それは間違いない。俺だって道分先生に憧れて、ここに入門したんだからなあ」
 目方はそう云って何度か頷いてからビールを空けるのでありました。
「総士先生がお帰りになります」
 堂下が広間に入って来て、万太郎達に告げるのでありました。
「判った。すぐに行く」
 万太郎はそう返事して直ちに立つのでありました。あゆみも来間も良平も、それに続いて腰を上げるのでありました。
「じゃあ目片さん、また何れ」
 万太郎はやや遅れて立った目方に立礼するのでありました。
「今日はご苦労様でした」
 目方は目礼を返すのでありました。その目がどことなく頼りなさそうであるのは、酔いのためか、或いは興堂派の将来に対する不安故かは俄かには判別出来ないのでありました。
 是路総士と寄敷範士はタクシーで帰路につくのでありました。鳥枝範士は葬儀で偶々一緒になった興堂派の財団の理事と少し寄り道をするのだそうでありますが、この理事は鳥枝範士の本業での知りあいで、或る金属加工会社の社長をしている人でありました。
 あゆみが是路総士達のタクシーに同乗して帰ったので、残った万太郎と来間は御茶ノ水駅から電車で調布の仙川まで帰るのでありました。良平は、この後特段の用もないし久しぶりに総本部にお邪魔しよう、等と云って一緒の電車に乗るのでありました。
「興堂派の若先生は、一体どういう神経をしているんだろうかね」
 吊革につかまって良平が横に立つ万太郎に話しかけるのでありました。「帰り際に挨拶に行った時、長男さんの後ろで俺達にお辞儀もしないで、何か妙に引き攣った顔であゆみさんの横顔ばっかり見ていたけど、あれは一体どういう事なんだろうな」
「確かに僕等にお辞儀しないのは僕も判っていましたけど、あゆみさんばかりを見ていたと云うのは、僕はちっとも気づきませんでしたね」
「あゆみ先生の方をじっと見ていたのは、僕も判っていましたよ」
 来間が頷くのでありました。「そいで以って、あゆみ先生と目があいそうになると、おどおどと慌てて視線を逸らしたりされていました」
 あゆみと威治教士の事を来間は概知でありましたが、良平は知らないのでありました。
(続)
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