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お前の番だ! 326 [お前の番だ! 11 創作]

 万太郎は明快にそう口走るのでありました。「武道の実力でも、頭の良さでも、人間的な強さに於いても、それに門下生達の信頼感も周りの色々な方々の評判と云う点でも、何をとっても、若先生には申しわけないですが、あゆみさんの方が数段上だと僕は思います」
「それは云うまでもない」
 鳥枝範士がその点は全く頷くのでありました。
「だったら、若先生が若しも邪な魂胆から、どのような悪策を仕かけてきたとしても、あゆみさんにはおいそれとは通用しないと云う事です」
「まあ確かに、威治の考えそうな悪巧みなんぞと云うのは児戯に等しいだろうがな。しかしすっかり侮っていると、寝首をかかれる事だってある」
「では、侮らなければ良いのです」
「つまりそれなりの注意をおさおさ怠らなければ、恐れるに足らずと云うわけだな」
 鳥枝範士はそう云って口を尖らせて二度頷くのでありました。
「まあ確かに、相手が道分先生ではなくて威治となれば、何をされようとこちらが泰然自若としておれば、大概の事はそれで大丈夫でしょうな」
 寄敷範士も頷くのでありました。
「それに、今から将来の取り越し苦労をしても仕方がないですな」
 是路総士がそう云うのでありましたが、些か曖昧過ぎはしますが、これが本日の相談事の結論と云う事になるでありましょうか。興堂範士の申し出はあっさりと引っこめられたのでありますから、当面の問題は確かに解消したと云う事にはなるでありましょうし。
「あのう、折角将来の話しが出たので、この際あたしの考えを、・・・」
 あゆみが不意に言葉を発するのでありました。
「まあまあ、あゆみ、今日のところはこれにてお開きとしよう」
 空かさず是路総士があゆみのその後の言葉を遮断するのでありました。「喫緊の話しでないのなら、今日でなくともこの後幾らでも話す機会もあるだろうし」
 是路総士のそのもの云いには、どこか断固とした威厳が漂っているのでありました。それに気圧されたようにあゆみは口を噤むのでありました。
「ねえ万ちゃん、ケーキ食べに行くけどつきあって。驕るから」
 鳥枝範士と寄敷範士の帰宅を見送った後で、あゆみが玄関で万太郎にそう話しかけるのでありました。数日来の懸案が急転直下解決したものだから、気も晴れて、あゆみは急にケーキでも食べたくなったと云うところかと万太郎は考えるのでありました。
「押忍。喜んでおつきあいさせていただきます」
 万太郎も何となく気持ちが軽くなってそう弾んだ声で応えるのでありました。
「注連ちゃんも行く?」
 あゆみは一緒に見送りに出てた来間にも聞くのでありました。
「いえ、自分は残ります。どうぞお二人で」
 来間は辞退するのでありました。万太郎とあゆみの間に自分が挟まるのを何となく遠慮するような気配が、来間の無表情の中に隠れているのに万太郎は気づくのでありました。
(続)
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