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お前の番だ! 324 [お前の番だ! 11 創作]

 若しもあゆみに意中の人があるとすれば、それは一体誰でありましょうや。あゆみの生活の範囲は万太郎と重なるところが多いので、案外容易く目星がつきそうでいて、しかし万太郎にはこれと云って確と思い当る男の顔が浮かばないのでありました。
 新木奈、と云う線は先ずないでありましょう。それから他の門下生達に対する時にしても、あゆみはその様な気配は全く見せないように思うのであります。
 そうなると総本部道場の門下生関連ではないと云う事でありましょうが、それならひょっとしたら興堂派の道場関係者でありましょうか。しかし向うの顔触れにも思いつく儘に名前を列挙したところで、特段該当するような男には思い到らないのでありました。
 花司馬筆頭教士と板場教士は既婚者であるし、堂下は弟分と云う以上の存在にはどうしても見えないのであります。向こうの門下生達にしてもこれはと云う候補の存在は、総本部の門下生達よりも更に印象として薄いように思われるのでありました。
 そうなると武道関連の男ではないかも知れません。例えば幼友達とか、中学や高校時代の同級生や上級生とか、大学時代に交流のあった他の大学の男の学生だとか、まあ色々、そう云った辺りだって考えられなくもないのでありますが、そう云えばこう云った話しを随分前に、良平とした事があるのを万太郎はふと思い出すのでありました。
 それから、書道関連と云う線もあるでありましょう。或いは一人で散歩をしていて偶然道ですれ違った男、と云う事だって可能性として全くなくはないでありましょう。
 そうなると万太郎には全く見当もつかないわけであります。日々の生活の中でかなりの時間を共有しているようでいながら、実はあゆみの全体像からすればほんの僅かな部分しか自分は見てはいないのかも知れないと、万太郎は少し寂しく考えるのでありました。
 いやいや、実際はあゆみに意中の人等は端からいなくて、単に鳥枝範士の質問と寄敷範士の追及に応えるのが億劫なばかりに、だんまりを決めこんだのかも知れないではありませんか。そっちの可能性だって、充分考えられるのであります。・・・
「それにしても道分先生のあの云い分は、丸々信じて良いものでしょうかなあ?」
 鳥枝範士の声が万太郎の思念の流れに割りこんでくるのでありました。
「そうですなあ、あの海千山千の道分先生の事ですから、すっかり本心を打ち明けられたのだと、素直に考えられないところも確かにあります。情勢を判断して一先ず先の申し出を引っこめる形にした方が後々有利と、そう計って云われたのかも知れなませんなあ」
 寄敷範士が腕組みして頷くのでありました。
「総士先生は如何お考えになりますか?」
 鳥枝範士に言葉を向けられて、是路総士は俯いて小指の先で頭を掻くのでありました。
「まあ、態々早々に自ら足を運んで、提案を引っこめて詫びられた事になるのですから、その儘こちらも素直にその篤行を受け入れれば良いのじゃないですか」
「現段階ではそう決着させたとしても、或いは私の杞憂かも知れせんが、どうも私にはこの道分先生の行動は何やらの後図があっての事のように思われてなりません」
 寄敷範士が懸念を表明するのでありました。
「ま、そう疑って繋ってばかりでも仕方がないでしょう」
(続)
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