お前の番だ! 308 [お前の番だ! 11 創作]
矢張り搦め手できたか、と万太郎は思うのでありました。あゆみの威治教士対するつれなさは威治教士自身も、幾ら自信過剰なる彼の人であろうともしっかり感じていたでありましょうから、自ら単独で事を運ぶよりはその方が勝算ありと踏んだのでありましょう。
「唐突って云うか、何て云うか、・・・」
多少呆れたようなその云い草からすれば、あゆみにとったらどだい自分には全くそんな話しになんか乗り気にはなれない、と云ったところでありましょうか。
「あんまり気が進まないような云い方ですね?」
「あんまりどころか、嫌よ、あたしは、威治さんと結婚なんか」
あゆみは、考える余地もないと云う風にきっぱりとそう宣するのでありました。
「で、あゆみさんはその場でそのような返事をされたのですか?」
「本人から直接云われたのなら即座に断ったけど、道分先生からの申し出だから。・・・」
「つまり返事を曖昧に濁した、と云うのですね?」
「はっきりと嫌だって言葉は出さなかったわ」
「慎重ですね」
結構気の強いあゆみさんにしては、と云う言葉を万太郎は省くのでありました。
「それで今お父さんに呼ばれて、その辺を問い質されたのよ」
あゆみがそう云った時に、丁度コーヒーメーカーの出来上がりの報知音が鳴るのでありました。あゆみはクラッカーを一枚口に放りこんでから立ち上がるのでありました。
あゆみがまた席に座って香気に満ちた湯気が旺盛に立ち昇るマグカップを持ち上げた時、風呂の湯加減を見に行っていた来間が食堂に戻って来るのでありました。殆ど同じタイミングで、是路総士が師範控えの間を引き上げてきて食堂に姿を見せるのでありました。
「総士先生、風呂にどうぞ」
万太郎は立ちあがってそう云いながら軽くお辞儀するのでありました。
「ああそうか」
是路総士はその儘居間の方に運ぼうとしていた足を止めるのでありました。万太郎の言を受けて、居間には入らずにすぐに風呂場へ向かうつもりなのでありましょう。
三助役の来間が、風呂場まで先導するために是路総士の傍に寄ってくるのでありました。風呂場に向かう二人と一緒にあゆみも食堂を出て行くのは、是路総士の寝所から着替えを出してそれを来間に渡すためでありましょう。
食堂に戻って来たあゆみがまた元の席に座ってマグカップを取り上げるのでありました。カップから立ち昇る湯気は殆ど目立たなくなっているのでありました。
「ええと、どこまで話したっけ?」
あゆみは万太郎の方に視線を向けて、またクラッカーを一枚頬張るのでありました。
「あゆみさんの意を質そうと総士先生に控えの間に呼ばれた、と云うところまでです」
「そうそう。それでお父さんにあたしの気持ちを訊かれたのよ」
「総士先生はあゆみさんが急に無愛想になった事をお咎めになりませんでしたか? 傍で見ていても、あゆみさんの様子は如何にも興醒めたように変貌していましたから」
(続)
「唐突って云うか、何て云うか、・・・」
多少呆れたようなその云い草からすれば、あゆみにとったらどだい自分には全くそんな話しになんか乗り気にはなれない、と云ったところでありましょうか。
「あんまり気が進まないような云い方ですね?」
「あんまりどころか、嫌よ、あたしは、威治さんと結婚なんか」
あゆみは、考える余地もないと云う風にきっぱりとそう宣するのでありました。
「で、あゆみさんはその場でそのような返事をされたのですか?」
「本人から直接云われたのなら即座に断ったけど、道分先生からの申し出だから。・・・」
「つまり返事を曖昧に濁した、と云うのですね?」
「はっきりと嫌だって言葉は出さなかったわ」
「慎重ですね」
結構気の強いあゆみさんにしては、と云う言葉を万太郎は省くのでありました。
「それで今お父さんに呼ばれて、その辺を問い質されたのよ」
あゆみがそう云った時に、丁度コーヒーメーカーの出来上がりの報知音が鳴るのでありました。あゆみはクラッカーを一枚口に放りこんでから立ち上がるのでありました。
あゆみがまた席に座って香気に満ちた湯気が旺盛に立ち昇るマグカップを持ち上げた時、風呂の湯加減を見に行っていた来間が食堂に戻って来るのでありました。殆ど同じタイミングで、是路総士が師範控えの間を引き上げてきて食堂に姿を見せるのでありました。
「総士先生、風呂にどうぞ」
万太郎は立ちあがってそう云いながら軽くお辞儀するのでありました。
「ああそうか」
是路総士はその儘居間の方に運ぼうとしていた足を止めるのでありました。万太郎の言を受けて、居間には入らずにすぐに風呂場へ向かうつもりなのでありましょう。
三助役の来間が、風呂場まで先導するために是路総士の傍に寄ってくるのでありました。風呂場に向かう二人と一緒にあゆみも食堂を出て行くのは、是路総士の寝所から着替えを出してそれを来間に渡すためでありましょう。
食堂に戻って来たあゆみがまた元の席に座ってマグカップを取り上げるのでありました。カップから立ち昇る湯気は殆ど目立たなくなっているのでありました。
「ええと、どこまで話したっけ?」
あゆみは万太郎の方に視線を向けて、またクラッカーを一枚頬張るのでありました。
「あゆみさんの意を質そうと総士先生に控えの間に呼ばれた、と云うところまでです」
「そうそう。それでお父さんにあたしの気持ちを訊かれたのよ」
「総士先生はあゆみさんが急に無愛想になった事をお咎めになりませんでしたか? 傍で見ていても、あゆみさんの様子は如何にも興醒めたように変貌していましたから」
(続)
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