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お前の番だ! 295 [お前の番だ! 10 創作]

「まあ、どういう風にでも、お前達の了見に私は従うのみだ」
 是路総士はそうあっさり云って一つ頷くのでありました。
「これは万ちゃんとも相談していた事なんだけど、お父さんの復帰を機に、鳥枝先生も寄敷先生にも、総本部の稽古に本格的に復帰して貰うつもりでいるのよ」
 あゆみが万太郎と話し手を代わるのでありました。「あたしと万ちゃんだけでは、どうしても総本部の指導陣が手薄な印象が拭えないから」
「そうでもないだろう。私が見る限りでは、前よりも道場の活気が増したように思うがなあ。指導者が若返った分、門下生達の意気ごみも増したような気がするが」
「でも矢張り、あたしと万ちゃんだけでは皆さん物足りないんじゃないかしら」
「しかし、このところ入門者も増えてきたじゃないか。前から居る連中も誰も辞めはしないし、寧ろ前よりも皆、溌剌と稽古に通って来ているように感じるぞ。当分今の儘でお前達が稽古を取り仕切る方が、将来のためにも良いのではないのかな?」
 是路総士の、誰も辞めないし、と云う言葉で、万太郎の頭に新木奈の顔がちらと過ぎるのでありました。あゆみとのあの件以来、新木奈は矢張り全く現れないのでありました。
「だから一層、ここで指導陣の層の厚さが要るとあたしは思うのよ」
 あゆみが云い募るのでありました。「前みたいに、お父さんと鳥枝先生と寄敷先生の三頭体制に返るのじゃなくてね、そこにあたしと万ちゃんも加わって、五人体制にするの」
「その五人の稽古の割りふりはどうするんだ?」
「例えば火曜日はお父さん、水曜日は寄敷先生、木曜日は鳥枝先生、として、金土日曜日はあたしと万ちゃんが担当する、とかね。まあ、誰がどの曜日を担当するかは後で話しあうとして、そうやって、その曜日の中心指導者を予め決めておくの。曜日の担当者はその日の総本部での稽古の総てを見ることになるわ。支部への出張指導は、他の四人が回り持ちとするの。指導者が多い方が稽古にも変化があって、厚みも出るんじゃないかしら」
「今の体制では、専門稽古生は鳥枝先生や寄敷先生の体術稽古を偶に受ける事が出来ても、夜の一般門下生は、両先生の指導を受ける機会が全くない事になります。夜は殆ど両先生は支部の稽古に行かれますから。しかし一般門下生も前のように両先生の指導が受けられるようになれば、それは屹度門下生もより意欲的になると思います。支部の会員にしても、色んな先生の指導を受ける方が、技の癖を失くすと云う観点からも益があると思われます」
 万太郎があゆみの後に続けるのでありました。
「ま、総てがその思惑通り好都合に回れば、それはそう云う按配になるだろうよ」
 是路総士はそう、やや冷めた云い方をするのでありました。「取り敢えず、運営はお前達に任せたわけだから、お前達の考える通りにやってみると良い。私はそれに従うのみだ」
「それでは、そうと決まればなるべく早く話しをしておきたいと思いますので、今度の月曜日の道場休館日にでも、申しわけないですが鳥枝先生と寄敷先生にお越しいただいて、この提案をさせていただこうとか思っているのですが、総士先生、如何でしょうか?」
 万太郎はそう云って畳に両手をついて、やや上体を前傾させた姿勢で是路総士の顔を窺うのでありました。あゆみも少し遅れてその姿勢に倣うのでありました。
(続)
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