SSブログ

お前の番だ! 283 [お前の番だ! 10 創作]

「そうだな、一つやろうかな。出来たら熱燗で」
 是路総士は何となく遠慮気味にそう強請るのでありました。あゆみが日本酒の一升瓶を出すと、来間がすぐにその後の仕事を買って出るのでありました。
「押忍。自分がやります」
 来間はあゆみから一升瓶を受け取るとそれを流し台の上に置いて、食器棚から徳利と是路総士愛用の猪口を取り出すのでありました。あゆみはお燗仕事を来間に任せて、再びテーブルの万太郎と向いあう席に座るのでありました。
「明日の稽古の打ちあわせか?」
 是路総士が居間から訊くのでありました。
「押忍。一週間分の稽古技の調整です。毎日、稽古した技やその折注意した点とか強調した点なんかをノートにちゃんとつけておかないと、迂闊者の僕なんかはうっかり二日も三日も続けて、同じ技の同じ部分ばかりを稽古する場合がありますから」
 万太郎が応えるのでありました。
「それは律義なものだな。まあ、その方が効率的な稽古が出来るか。以前に私と鳥枝さんと寄敷さんで、同じ技を三日続けて平気で稽古するなんと云う事もあったがな。前は、あんまり稽古技の打ちあわせなんかしなかったからなあ」
 これは勿論、万太郎とあゆみが厳格に毎日の稽古技を管理している事に感心している是路総士の言葉なのでありました。
「ああそうだ、お父さん、これから師範控えの間を使わせて貰って構わない?」
 あゆみが申し出るのでありました。
「それは構わないが、未だ打ちあわせが済んでいないのか?」
「それもあるけど、ちょっと一般門下生から意見が持ちこまれたものだから、その対応を万ちゃんと話しあっておきたいの」
「ふうん、意見が持ちこまれたのか?」
「そう。そんなに大した事じゃないんだけど、一応万ちゃんとつめておきたいのよ」
「ま、良しなに計らってくれ。道場の事はお前達にすっかり任せてあるんだから」
 是路総士はその、持ちこまれた意見、の具体的なところに関してそれ以上一切問わないのでありましたし、一寸言も容喙しようともしないのでありました。
「じゃあ、師範控えの間を使わせて貰うわね」
 あゆみが是路総士に念を押すのでありました・
「ああ、構わんよ」
「押忍。有難うございます」
 万太郎も是路総士に頭を下げるのでありました。
「後でコーヒーでもお持ちしましょうか?」
 来間が流し台で燗をしながら万太郎とあゆみの方をふり返るのでありました。
「有難う。でもそれは結構よ。そんなに長い話しにはならないから」
「押忍。判りました」
(続)
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 14

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

お前の番だ! 282お前の番だ! 284 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。