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お前の番だ! 278 [お前の番だ! 10 創作]

 あゆみは万太郎から目を背けるのでありました。
「威治さんから新木奈さんの方に話しが移るの?」
「つまり、若先生と新木奈さんのあゆみさんに対する魂胆が同じ種類のものだから、早晩ぶつかって当然だと云う意味で、起こるべくして起こったと僕は云ったのです」
「同じ種類の魂胆?」
 あゆみは万太郎を一直線に見るのでありました。
「そうですね。そう云ったところももう、あゆみさんも気づいていたでしょう?」
 万太郎にそう云われてあゆみは目を逸らすのでありました。その逸らし様に多少の動揺があるのを万太郎は見逃さないのでありました。
「それはまあ、そうだけど。・・・」
 あゆみはまた万太郎の顔に視線を戻すのでありました。今更しらばくれても始まらないかと云う、どこか腹を据えたような図太さがその視線に籠っているのでありました。
「新木奈さんの方もあんなにあからさまですし、気づかない方がおかしいですよね」
「実のところ、あたしとしてはあの二人には困惑してはいるのよ」
 そう云うあゆみの表情には本当に困ったような色が浮かんでいるのでありました。と云う事はあの二人の思いの丈に比べれば、あゆみの二人への、或いはどちらか一人への思いなんと云うものは、全く以って低調な域にあると告白した事になるでありましょうか。
 そう理解した万太郎は、体に窮屈に纏いついていた衣服の締めつけが幾らか緩むような心地がするのでありました。これはもう間違いなく、あゆみはあの二人の自分に対する熱狂にげんなりしていると踏んで、先ず間違いないでありましょう。
「確認しますけど、あゆみさんは狸ではないですよね?」
 突然万太郎にそう云われて、あゆみは目を見開くのでありました。しかし万太郎が自分に何を訊かんとしているのかは了解出来ているようでありました。
「どちらかと云うとあたしは狐顔じゃなくて狸顔だって、前に友達に云われた事はあるわ」
「それじゃあ、狸なんですかね?」
「ま、顔の方はね」
 あゆみはそう云って趣意あり気な笑いをするのでありました。「要するに万ちゃんは、あたしが威治さんか新木奈さんのどちらかに本当は魅かれているか、或いは二人のそう云う気持ちを面白がって、意地悪に弄ぼうとしているんじゃないかって疑っているわけね。そんな邪心を隠して、万ちゃんに恍けているんじゃないかって、そう訊いているのね?」
 万太郎はそんなにあっさり云われて仕舞うと、何故かたじろぐのでありました。
「まあ、そんなような、そんなようでないような。・・・」
 万太郎はあゆみから目を逸らして手元のコーヒーカップを見るのでありました。
「生一本に、困惑しているのよ、あたしは」
「ああ、生一本、ですか」
 これは前に良平がよく使っていた言葉で、間違いなく、とでも云う意味でありますか。まあ確かに、あゆみはそんな下卑た魂胆を隠し持つような人ではないでありましょうし。
(続)
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