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お前の番だ! 270 [お前の番だ! 9 創作]

「腕を自分の正中線上に置いて、そこから絶対外さないで腰を先ず逆に切って、・・・」
 最初あゆみは新木奈の質問にやや険しい目つきをして見せるのでありました。しかし何を思ったのか新木奈の不心得に目を瞑って、あゆみは指導を始めるのでありました。
「こうかな?」
 新木奈はあゆみの言葉をなぞるように腰を動かすのでありました。
「そう。そうしたら少し相手の固定が緩むでしょう?」
「ああ成程」
「そこで剣をふり被るような要領で、腰を今度は反対に切りながら手刀で相手の腕を押し上げると、案外小さな力で固定を破る事が出来るでしょう?」
「こうやって、と。・・・」
 新木奈はあゆみの指導に従って手刀をふり被ろうとするのでありましたが、相手の手は全く持ち上がらないのでありました。何度か試してもちっとも上手くいかないものだから、堪え性のない新木奈は焦れて強引に相手との力比べに走るのでありました。
 相手は黒帯を締めた先輩格でもある新木奈の体裁を思い遣ってか、態と力を緩めて新木奈に手をふり上げさせて遣るのでありました。
「いやいや、ちっとも上手くいかないや」
 当然相手の思い遣りが判った新木奈は、繕うように笑って見せるのでありました。
「それじゃダメですよ」
 あゆみが代わって新木奈の相手に自分の片手を握らせるのでありました。
「良いですか、こうして先ず逆側に腰を切って、・・・」
 あゆみは少し大袈裟な動きで、腰と手刀の連動を再現して見せるのでありました。あゆみの腕を持った相手は面白いようにその思う壺に嵌って体勢を崩して仕舞い、あゆみにあっさり逆に腕を一本取りに制せられて仕舞うのでありました。
「本当はこんなに相手に覚られるように動いたりしないんだけど、まあ、最初は腰と手刀の動きを習得するために、少しくらいオーバーにやっても良いでしょう」
 あゆみは新木奈にニコニコと笑いかけるのでありました。
「ちょっと俺にもかけてみてください」
 新木奈はそう云うとあゆみの腕を両手で取るのでありました。あゆみはそれも、今度は小さな動きで難なく一本取りにするのでありました。
「へえ、流石に大したものだ。もう一本お願いします」
 新木奈は再びあゆみの腕を取るのでありました。少し離れた位置でその様子を見ていた万太郎には、新木奈があゆみにじゃれついているようにしか見えないのでありました。
 同時に、あゆみの手に何度も接触したいと云う新木奈の魂胆も見え透いているのでありました。これを不謹慎な稽古態度と云わずして、何と云えば良いのでありましょう。
「じゃあ、俺の手を持ってみろ」
 あゆみが再び新木奈の腕を一本取りにしたところで、そこに近寄って来た威治教士が声をかけるのでありました。表情に、何やら不穏な気配が浮いているのでありました。
(続)
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