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お前の番だ! 263 [お前の番だ! 9 創作]

「うーん、成程ね」
 鳥枝範士は頷きながら腕組みするのでありました。「そう云う経理上の事は、もうあゆみとは話しあっている事なのか?」
「いえ、あゆみさんとは先生方のご納得を得た上で協議しようと思います」
「何だ、お前の一存か」
「押忍。今のところそう云う次第です」
「あゆみとお前が話しあった上で結論を出して、こちらに持ってくるのが順序だろう」
「押忍。迂闊でした。申しわけありません」
 万太郎は頭を掻くのでありました。しかしそう云われても困るのは、この提案が一人暮らしの自活を何とか回避して、今までの内弟子の儘でいたいと云う魂胆から咄嗟に思いついたものでありますから、万太郎としては順序も何もないのでありました。
「いやところで、自活するお前に、給金五万円と云うわけにはいかんだろうなあ?」
 鳥枝範士が腕組みを解いて万太郎を指差すのでありました。
「で、そこの点なのですが、僕としましては今までの五万円の給金の儘で住みこみの内弟子を続けさせて貰って、もう暫く経理上の経過を見たいと考えているのですが」
「何だ、自活をせんのか?」
「ええ。道場の余計な出費は抑えるに如くはないと思いますから」
「要するに今までの待遇の儘で結構、と云っているわけだな?」
 是路総士が笑い顔で云うのでありました。
「押忍。道場の収支の変化は、今のところ起こしたくありませんので」
 万太郎は是路総士に道場運営を任された者としての顔でお辞儀するのでありました。
「まあ、折野がそう云う了見なら、一先ずはそうしておいては如何かな?」
 是路総士がちらと万太郎を見た後で鳥枝範士に云うのでありました。
「一旦任せた限りは、勿論私は差し出がましい事は申しません」
 これで鳥枝範士も万太郎の一存に、それ以上あれこれ意見は差し挟まないと宣したわけでありましょうか。万太郎は秘かに胸を撫で下ろすのでありました。
「その手の話しは、今日はそのくらいにしておきましょうや」
 寄敷範士が話題を締め括ろうとするのでありました。
「押忍。あゆみさんと協議をしてから、また後日提案をいたします」
 万太郎にこの話しを打ち切る事を阻む何の理由もないのでありました。
 丁度そこに来間が現れるのでありました。来間は廊下に正坐して是路総士の退院祝いの膳が調ったが、ここに運んでよいかと万太郎に訊くのでありました。
「総士先生如何いたしましょうか?」
 万太郎は、来間の報告を一緒に聞いていた是路総士に伺いを立てるのでありました。
「そうだな、今日は道場に何人いる?」
「押忍。ええと、総勢十二人ですか」
 万太郎が指を折りつつ勘定してから報告するのでありました。
(続)
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