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お前の番だ! 261 [お前の番だ! 9 創作]

 万太郎は来間に指示するのでありました。
「押忍。承りました」
 来間はそう返事して片倉を従えて台所の方に戻るのでありました。盆や余った二つの茶は片倉に持たせて、自分は一緒に台所に戻らずにすぐに内弟子控え室に行けばよいものをと、万太郎は来間の手際のスマートでない様子に少し苦るのでありました。
「どうだ折野、任せられた総本部道場の仕切りの方は?」
 是路総士が鳥枝範士と寄敷範士の後ろにいる万太郎に訊ねるのでありました。
「押忍。道場長の補佐をどうにかこうにか務めさせていただいております」
 道場長と云うのは勿論あゆみの事であります。
「今のところ滞りなくやっていますかな」
 鳥枝範士が云い添えるのでありました。今の今まで、鳥枝範士は万太郎とあゆみの仕方に、本当に何の文句も注文もつけなし、また褒めもしないのでありましたのに。
 それどころか出張指導のスケジュールも任せきりにして、その指図に繰り言一つ云わずに従ってくれているのでありました。総本部道場の稽古で見所に座る時にしても、あゆみや万太郎の指導法に一切口出しせずに、寡黙な儘でその役を熟しているのでありました。
「暫く続けていると道場切り盛りの事務ばかりではなく、金銭の出入りや、どのような経営状況にあるかとかも把握出来るようになるだろう」
 是路総士が茶を手にして続けるのでありました。
「帳簿づけは道場長の担当です」
「それにしたって、お前にも判るだろうよ」
「まあ、ほぼ判ってはいますが、しかし僕ごとき住みこみの一内弟子がどこまでその方面にタッチして良いものやら、何となく戸惑いと気後れがあるのも正直なところです」
「ああ、それで思い出しましたが、折野にはそろそろ道場を出て自活して貰って、道場長代理及び総本部教士の仕事をやらせてはどうかと思うのですが、如何でしょう?」
 鳥枝範士が是路総士に突然そんな意見具申をするのでありました。
「それもそうだな」
 是路総士はそう云って俯いて手にしていた茶碗に目を落とすのでありました。「折野、お前内弟子に入って何年になるかな?」
 是路総士は顔を起こすのでありました。
「七年、いやそろそろ八年になります」
「ぼちぼち自活するのも適当な時期ではあるな」
 是路総士は納得するように一つ頷くのでありました。しかし万太郎としては、もう少しこの儘道場に住みこんで、ほぼ稽古三昧に過ごしたいと云う魂胆でいたのでありました。
「自活するとなると、折野に相応の給金を出す事になります」
 鳥枝範士が話しを続けるのでありました。「それは鳥枝建設の方で賄うとして、同期でウチに就職した連中と同等程度の賃金を給せば、何とか自活も出来るでしょう」
 鳥枝範士は後ろの万太郎の方に顔を捻じるのでありました。
(続)
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