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お前の番だ! 247 [お前の番だ! 9 創作]

「いやそれは、何とも有難い」
 是路総士も共犯者のような笑みを頬に作るのでありました。「いやね、先程日本酒の差し入れがあればこんな嬉しい事はないと、寄敷さんと折野に話していたところでしたよ」
「その言葉をあゆみさんに僕が告げ口すると後で総士先生が叱られるから、屹度内緒にしろと云う固い指示を受けたところでもありました」
 万太郎が云い添えるのでありました。
「そりゃそうじゃ。ワシの見舞い品についても、あゆみちゃんには云ってはならんぞ」
 興堂範士が後ろの万太郎をふり返って、口に人差し指を添えて見せるのでありました。
「押忍。承りました」
 万太郎は固いお辞儀をするのでありました。
「私は別に胃腸の病気で手術を受けたわけじゃないから、酒は飲んでも構わん筈だ」
 是路総士は勝手な理屈を宣うのでありました。
「いや、血流に関係しますから少なくとも三日はいけません。傷の治りが遅くなります」
 寄敷範士があまり窘める気もなさそうに、一応窘めるのでありました。
「なあに、ワシやあにさんの体は鍛え方が違うから、少々の酒など問題ないわい」
 興堂範士はそう云って大笑するのでありました。こういう会話を病院の関係者に聞かせたら途轍もない顰蹙を買うであろうと、万太郎は内心面白がるのでありました。
「ところであにさん、道場の方は大丈夫ですかな?」
 興堂範士が話題を転じるのでありました。
「鳥枝さんとそこの寄敷さんが良しなに取り仕切ってくれています」
「若し道場運営に必要があるようでしたら、ワシも一肌脱ぎますぞ」
 興堂範士は茶目っ気たっぷりに片肌脱ぐ仕草をして見せるのでありました。
「有難うございます。これを丁度良い機会として、今後は若い者を前面に押し出した運営をしていこうと云う話しになっておりますよ」
 寄敷範士が是路総士の代わりに応えるのでありました。
「若い者、と云うと、あゆみちゃんとそこの折野君ですかな?」
「そうです。向後あゆみを総本部道場長、それから折野を道場長代理と云う役職につけまして、それを私と鳥枝で後援すると云う形です」
「私も、退院して復帰した暁には後援の方に回る所存ですよ」
 是路総士が云い添えるのでありました。
「総本部道場もいよいよ新体制と云うわけですかな。結構々々。ウチの道場も若い者をこれから大いに売り出そうと、前にお話ししたかと思いますが威治を道場長にして、そこの花司馬筆頭教士と二人で引っ張っていって貰うような算段をしております。まあ、これは実は、ワシがこれからは大いに楽をしようと云う魂胆が第一番なのですがな」
「遅ればせながら総本部も六十過ぎの爺さん連中は後ろに退いて、徐々に世代交代ですよ。まあ、日本武道協会とか古武道協議会とかへの体裁がありますから名目的に、鳥枝さんが総士代理、寄敷さんが総士代理補佐として、外交的な活動を補佐して貰う予定です」
(続)
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