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お前の番だ! 244 [お前の番だ! 9 創作]

 座敷にはあゆみも入って、万太郎の傍に静かに座るのでありました。
「いやまあ、手術が昨日だったと云うのに、思いの外お元気な様子だったよ」
 鳥枝範士が寄敷範士に報告するのでありました。「もうベッドに上体を起こして座っておられたし、朝食も出されたものは総て食されたようだよ」
「へえ。それは一安心だ。昨晩のご様子はどうだったんだろう?」
 寄敷範士はあゆみの方を見て訊くのでありました。
「全く手がかからない患者さんだったなんて、看護婦さんがおっしゃっていました」
「ふうん。・・・それで、話しは出来たのかい?」
 寄敷範士は鳥枝範士の方に目を戻すのでありました。
「ま、大まかなところはお伝え出来たし、思うようにやれと云うご裁可もいただいた」
「あゆみの総本部道場長と云うのも、折野の道場長代理と云うのもお許しが出たかい?」
「お許しいただいた。ただ、道場内の機構はそれで良いが、対外的には一応ワシが総士代理、寄敷さんが総士代理補佐、と云う形にしろとの命があった」
「ふうん。まあ、その方が対外的な体裁としては色々と納まりが良いか」
 寄敷範士が無表情で頷くのでありました。
「ワシ等の役職はあくまで名目的なもので、あゆみと折野の主導で今後の総本部道場を実質的に運営すると云う線は、ワシの提言通りご納得されたよ」
 鳥枝範士は並んで座っているあゆみと万太郎の方をジロリと見るのでありました。「ところで今日の稽古での折野の中心指導ぶりはどうだったかな?」
「まあ、これまでも中心指導は時折やっていたから特段問題はなかった。急に気負いが前面に出る風でもなかったし、専門稽古生共のあしらいも堂に入っていたよ」
「あゆみと折野の二人に、総本部道場の稽古を任せても大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。寧ろ俺達がやるより稽古に活気が出るだろう」
「若いだけに足りないのは、後は威厳だけか」
「いやいや、若造の癖に稽古中の折野の威厳は大したものだったよ」
 寄敷範士は万太郎を見るのでありました。その視線にどう云う表情をして良いのか判らないものだから、万太郎は無表情な儘で半眼をしているのでありました。
「寄敷さんの評価は何時も甘いからなあ」
 鳥枝範士がそう云って笑いながら万太郎の方を向くのでありましたが、その視線に釣られたのか、横のあゆみまで万太郎の方に首を捻じるのでありました。万太郎は正坐で尻を乗せている踵の内側辺りがむず痒くなる心地がするのでありました。

 昼食を終えてから今度は万太郎と寄敷範士が、是路総士を見舞うために病院へ向かうのでありました。仙川駅でタクシーを拾って世田谷の大蔵まで二十分程の行程でありました。
 是路総士は一般入院病棟に移っているのでありました。四人部屋の窓際のベッドで、窓からはあまり手入れのされていない病院中庭が見下ろされるのでありました。
「おう、時を置かず替わり顔が現れよったな」
(続)
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