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お前の番だ! 237 [お前の番だ! 8 創作]

「おう、ご苦労」
 鳥枝範士は稽古着の入っているバッグを万太郎に渡しながら玄関を上がると、その儘師範控えの間の方に向かうのでありました。万太郎はバッグを持ってつき従い、鳥枝範士が座敷に落ち着くとバッグを鳥枝範士の傍らに静かに置くのでありました。
「お茶を入れてきます」
「もうそろそろ寄敷さんも来るから、茶はそれからで構わん」
 鳥枝範士はそう云うと持ってきたバッグの中から早速、厚紙で出来た書類ホルダーを取り出すのでありました。稽古の予定表やら人員の配置表、それに道場関連の行事等の総本部道場運営に関する諸書類が一式挟んであるものであります。
「押忍。承りました」
 万太郎は鳥枝範士にお辞儀して引き下がるのでありました。これから両範士であれこれ協議して、是路総士が抜けた後の稽古予定等の調整をするのでありましょう。
「鳥枝先生がいらっしゃいました」
 万太郎は急ぎ台所の方に行って、台所と隔てる襖、それに廊下側の障子戸をすっかり開け放った状態で、居間の掃除をしているあゆみに報告するのでありました。
「ああそう。それじゃお茶をお出ししなくっちゃ」
「いや、すぐに寄敷先生もいらっしゃるので、お茶はお二人揃ってからで良いそうです」
「ああそう。それじゃあ一応、挨拶に顔を出しておくわ」
 あゆみがそそくさと師範控えの間の方に去ると、万太郎は母屋の庭掃除をしているジョージに声をかけるのでありました。
「おいジョージ、鳥枝先生がいらしたから挨拶に行って来い」
「押忍。承りました」
 ジョージは外国人特有の癖が殆どない全く以って流暢な日本語で、内弟子のお決まりの返事をするのでありました。彼は日本にやって来て既に四年以上経っているし、聞くところに依るとアメリカの大学では日本神話や日本史の勉強をしていたと云うだけあって、日常的な会話は勿論、日本語の小難しい云い回しにもある程度は通じているようでありましたし、漢字やひらがなカタカナの読み書きも一定程度は大丈夫なのでありました。
 万太郎は次に道場に行って、中の掃除や整頓をしている来間と山田に師範控えの間にいる鳥枝範士への挨拶を促すのでありました。その後、玄関に回って寄敷範士の来訪を待ちつつ、引き戸の硝子拭きをまた再開するのでありました。
「よう、ご苦労さん」
 門を入ってきた寄敷範士が万太郎に手を上げて見せるのでありました。
「押忍。お早うございます」
「鳥枝さんは?」
「押忍。もう控えの間の方にいらっしゃいます」
 万太郎は、これも鳥枝範士の場合と同じように寄敷範士の稽古着の入ったバッグを受け取って、師範控えの間までつき従うのでありました。
(続)
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