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お前の番だ! 229 [お前の番だ! 8 創作]

 医師は及び腰を見せて、目を逸らすために天井を見上げるのでありました。
「そこまでの保証は出来ないと?」
 鳥枝範士は医師を睨むのでありました。部屋の扉が開いて、ちょうどそこに鳥枝範士や寄敷範士と同じくらいの歳の、これも白衣の医師が中に入って来るのでありました。
「おう、院長」
 鳥枝範士はその医師に手を上げるのでありましたが、医師も同じ仕草でそれに応えるのでありました。万太郎にはこの二人は旧知の仲と云った風に見えるのであります。後で鳥枝範士に聞いたところに依れば、二人は高校時代の同級生だと云う事でありました。
「手術が無事に終わった事を報告して、今術後の話しをしているのですが、・・・」
 執刀医は院長と呼ばれた医師に助けを求めるような顔を向けるのでありました。
「ああ、あそこの恰幅の良い強面のオッサンに、ちゃんと元通りになるのかならないのかはっきりしろ、とか云って凄まれたかな?」
 院長は鳥枝範士の気性をすっかり承知しているようで、ニヤニヤと笑いながら鳥枝範士を指差すのでありました。
「ワシは別に凄んではおらんよ」
 鳥枝範士は腕組みして院長から目を逸らすのでありました。
「どんな名医でも手術が済んだばかりの段階で、その先の事は何とも明快には保障出来ないよ。術後の様子は人に依っても様々なんだから」
「それは判るが、こちらとしても手術が成功したのなら、その後に関しても医師から一定程度の安心を得たいと云うのも自然な心根だぞ」
「ま、態々大学から名医を呼んで、その医師にメスを執って貰って無事に手術は成功したんだから、今の段階では一先ず安心して貰わねばこちらとしても立つ瀬がない」
「聞けば患者さんは長年武道をやられていて、人より体力も気力も格段に優れていると云う話しですから、屹度回復も順調に推移すると思いますよ」
 執刀医が云い添えるのでありました。
「ふむ、成程ね。それなら取り敢えずは、そこの若い先生にお礼を申し上げる」
 鳥枝範士にそう云われて執刀医はようやく安堵の笑みを見せるのでありました。この遣り取りを傍で聞いていると、態々大学から出張して来て手術を担当してくれた医師に対して、慎に横柄且つ無礼な鳥枝範士の態度であると万太郎は思うのでありましたが、しかし執刀医に不快故の対抗的な言辞や態度を許さず、寧ろ最後には安堵の笑みすら漏らせしめる辺りは、鳥枝範士のある種の人徳であろうかと万太郎は妙な感心をするのでありました。
「患者さんは今夜は集中治療室で過ごして貰う事になりますが、患者さんが麻酔から覚めた時に身内の人が一人居て貰った方が何かと安心なんだが、・・・」
 院長は室内の六人を見渡すのでありましたが、その後には、この中の誰が残ってくれるのか、と云った質問の言葉が省略されているのでありましょう。
「あたしが残ります」
 あゆみが空かさず申し出るのでありました。
(続)
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