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お前の番だ! 226 [お前の番だ! 8 創作]

 鳥枝範士が掌を横にふって見せるのでありました。
「入院はどのくらいになるのかい?」
 寄敷範士が茶を啜りながらあゆみに訊くのでありました。
「一月程度の予定だそうです」
「リハビリとかでそのくらいかかるのだろうな」
「そうです。ずうっと寝てばかりいるのではないそうです」
「しかし退院しても、すぐに稽古に復帰はお出来にならんだろうなあ」
 あゆみは寄敷範士の言葉にしかつめ顔で頷くのでありました。
「暫くの間は我々がフル稼働で、総士先生のご回復まで、何とか切り盛りせんといかんだろうが、まあ、何とかなるだろう。明日道場に行ったら少し調整してみるよ」
 鳥枝範士が横の寄敷範士に云うと、寄敷範士は二度程頷くのでありました。
「俺も出来る限り直轄の支部に出向くようにする。幸い事務所の方は今は息子がメインでやってくれているから、俺の方は結構自由に動けると思う」
 寄敷範士がそう云うと、今度は鳥枝範士が二度程頷くのでありました。
「ワシも閑職に回っておるから会社の方はどうにかなる。週に二日も顔を出せばそれで充分だな。社ではワシの仕事は会議の目付役くらいのものだ。なあ、面能美」
 鳥枝範士は不意に良平に話しをふるのでありました。
「いや、そうでもないでしょう。大事な出張とかもありますし」
 良平が応じながら背広の内ポケットから手帳を引っ張り出すのでありました。「早速水曜日からは鳥取の出張が入っています」
「ああそうだったな。しかしそれはワシじゃなければならんと云う出張ではないだろう。社長か専務に代わって貰えば済む」
「専務はその日は名古屋です」
「ああそうかい。社長は?」
「社長は、・・・」
 良平は手帳を二三頁捲るのでありました。「社長はその日は新宿の本社です。午前中の会議の後は、都内の下請け回りですね」
「だったら鳥取は社長に行かせろ」
「判りました。明日の朝一番で社長に打診してみます」
「打診、じゃなくて行くようにワシが命じたと云え」
「判りました。社長に行って貰います」
「鳥取はお前が同行する事になっていたのか?」
「そうです。自分の方で出張の委細は按配出来ますから、会長から社長に代わっていただいても大丈夫かと。自分としても、我儘放題な会長より社長との出張の方が気が楽です」
 良平は遠慮もなくそう云って、愛嬌のある笑いを頬に浮かべて鳥枝範士の顔を見るのでありました。この二人の遣り取りからも、良平が鳥枝建設でなかなかクールに手際良く、自分の仕事を熟しているのだろうと云う事が万太郎にも推察出来るのでありました。
(続)
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