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お前の番だ! 223 [お前の番だ! 8 創作]

 是路総士の腰部の手術に際して、参集者のために用意された病院の控え室で鳥枝範士とあゆみ、それに万太郎の三人は全くの無言で、夫々やや離れて椅子に腰を下ろしているのでありました。とは云うものの、この手術が是路総士の命に関わると云うものではないためか、三人の表情にはそれ程沈痛な翳りがあると云うわけではないのでありました。
「鳥枝先生、お茶を貰ってきましょうか?」
 待つ身の手持無沙汰から万太郎は起立して鳥枝範士にそう声をかけるのでありました。
「いや、もう要らん」
「あゆみさんはどうですか?」
「あたしもいいわ」
 あゆみは万太郎に笑いかけるのでありました。あゆみの笑いは気を遣う万太郎への愛想のために強いて笑ったと云った風の、やや硬さのあるもものでありました。
 二人に断られたので万太郎は仕様方なくまた椅子に腰かけるのでありましたが、暫くすると部屋のドアが遠慮がちにノックされるのでありました。ドアに一番近い万太郎が対応に立つのでありましたが、外には大岸先生の心配顔があるのでありました。
「ああ、大岸先生」
 万太郎はお辞儀してからドアを大きく開くのでありました。万太郎の声で、鳥枝範士とあゆみが椅子から立ち上がるのでありました。
「大岸先生、態々お越しいただいて済みません」
 あゆみが前で掌を揃えて丁寧な一礼をするのでありました。
「いやあ、大岸先生までお越しいただくとは、恐縮です」
 鳥枝範士があゆみ程深くはないものの、律義らしく頭を下げるのでありました。
「で、未だ手術中なのですか?」
 大岸先生が鳥枝先生に返しのお辞儀をしてから訊くのでありました。
「ええ、そうですなあ」
 鳥枝範士は一端言葉を切って腕時計に目を遣るのでありました。「もうかれこれ二時間を過ぎましたか。場合に依っては四時間程かかるかもしれないと執刀医が云っていましたから、未だ中盤、と云ったところかも知れませんなあ」
「四時間もかかると云うなら、それは大手術ですよねえ」
 大岸先生の眉間に縦皺が刻まれるのでありました。
「しかし、命に関わる手術と云うのではないそうですから、そこは安心していますよ」
「でも、あゆみちゃんも心配な事だわねえ」
 大岸先生があゆみの背に掌を添えるのでありました。
「お気遣い有難うございます。でもあたしは、手術の方もさる事ですけど、これから先暫くの道場の運営の方がより気になっています」
 あゆみはそう云ってから鳥枝範士を見るのでありました。
「ま、それはあるが、何とか我々で上手く回していかんとな」
 鳥枝範士は決然と一回頷くのでありました。
(続)
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