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お前の番だ! 216 [お前の番だ! 8 創作]

「で、落ち着いたら鳥枝先生の仲人で香乃子ちゃんと結婚と云う段取りですか?」
「そうだな。だからそっちは一年以上先になるだろうな」
「でもまあ、もう香乃子ちゃんと一緒の家に住んでいるわけですけどね」
「ところで万さんの方は良い話しがないのかい?」
 良平が花林糖を口に放りこみながら話しの矛先を変えるのでありました。
「いやあ、僕は今のところ無骨一辺倒ですね」
 万太郎はそう云ってからコーヒーを一口飲むのでありました。
「まあ、内弟子をしていると女の子と出会う機会も少ないしなあ」
「しかし良さんは出会いましたね」
「俺は仕方がないから、ごく身近なところで手を打ったと云うわけだ」
 良平は香乃子ちゃんが聞いたら怒り出しそうな事を口走るのでありました。勿論香乃子ちゃんの前ではそんな科白は一切口の外に出さないのでありましょうが。
「身近、と云っても、どだい女子が少ない世界ですから、限られて仕舞いますよねえ」
「身近、で考えると、・・・あゆみさんとかはどうだい?」
 急にあゆみの名前が出てきたものだから、万太郎はたじろぐのでありました。
「いや、いくら何でもそれは畏れ多いでしょう。あゆみさんは総士先生の娘さんですし、僕等の姉弟子に当たるわけだから、そりゃあ、矢張り、その、・・・いかんでしょう」
「そうだな。今でも全く頭が上がらないんだから、若し一緒になったりすると、一生尻に敷かれる人生を送る羽目になるかな」
 あゆみがカカア天下になるかどうかを、万太郎は少し考えるのでありました。
「一生尻に敷かれるかどうかは別にして、あゆみさんはモテますからねえ。とても僕等の出る幕はないですよ。第一、弟分の僕等の事なんか問題にもされていないでしょうし」
「あゆみさんはモテるのかい?」
「あれ、良さんは気づいていませんか?」
 万太郎は花林糖を一つ摘むのでありました。「興堂派の若先生なんかは、大分あゆみさんにイカれていらっしゃると見ましたが」
「ああ、そう云う気配はずっと前から濃厚に窺えたな」
「それに我が道場の一般門下生の新木奈さんとかも、あゆみさんに気に入られようと一生懸命に、あの手この手で媚びへつらっていらっしゃるじゃないですか」
「確かに、それも普段の素ぶりから何となく窺える」
 何となくどころか、如何にも明快に見て取れるではないかと、万太郎は良平の言に対して心の内で反論するのでありました。
「他にも、新木奈さん程露骨ではないにしろ、あゆみさんを少なからず好ましく思っている連中がうじゃうじゃいるんじゃないですかね?」
「そりゃまあ、あんだけの美人だからなあ、あゆみさんは」
「でも道場では立場も技量でも歯が立たないから、連中は大人しくしているんですよ」
 万太郎は花林糖をガリッと噛むのでありました。
(続)
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