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お前の番だ! 203 [お前の番だ! 7 創作]

「じゃあ、デートって云うか、新婚生活の予行演習に出かけたってわけね」
「いや、香乃子ちゃんは未だ鳥枝建設の社員ですから、今日は仕事です」
「じゃあ、その香乃子ちゃんの実家に良君は何の用事で出かけたの?」
 大岸先生は持っているサラダボールを重く感じてきたのか、それを持ち直しながら小首を傾げて万太郎に訊くのでありました。
「良さんは向こうのお母さんにえらく気に入られていましてね。それに話しに依れば二人は、結婚したら香乃子ちゃんの実家に住む予定になっているようですよ」
「ふうん、そう」
 大岸先生はまたサラダボールを持ち直すのでありました。
「僕が持ちましょうか?」
 見兼ねて万太郎が手を出すのでありました。
「ううん、いいわ。台所に行ってあゆみちゃんから今のその話しの続きを聞くわ。庭掃除が済んだら万ちゃんもトウモロコシ食べに来なさい」
 大岸先生はそう云い残すと縁側から「ご免なさい」と家の中に声をかけて、慣れた様子で母屋に上がりこむのでありました。中から是路総士の答礼の声が聞こえないところを見ると、是路総士は居間ではなく師範控えの間の方に居るのでありましょう。
 庭箒と塵取りを片づけていると、大岸先生とあゆみが縁側に姿を現すのでありました。
「万ちゃん、一緒にトウモロコシ食べよう」
 縁側からあゆみが万太郎に手招きするのでありました。
「総士先生は控えの間ですか?」
 万太郎は縁側に腰を下ろしながらあゆみに訊くのでありました。
「そう。来年の三月から道場の体制が少し変わるから、その調整とかがあるんだって」
「総士先生はトウモロコシを召しあがらないのでしょうか?」
「さっき控えの間に一本持って行ったわ」
「ああそうですか」
 万太郎は皿に移されたトウモロコシを取るのでありました。
「良君がこの道場に居るのも後半年程だわね」
 大岸先生が上手に指でトウモロコシ粒を扱いて芯から外しながら云うのでありました。
「いや、来年の二月にはここを引き払って香乃子ちゃんの家に移るから、後四か月を切ったと云ったところですかね」
 万太郎は粒を一つ々々取るのが億劫なものだから、横着をして大口を開けて横から齧りついて歯で以って扱き取るのでありました。
「じゃあ、内弟子も二月で切り上げと云う事になるの?」
「ええ。それから先は鳥枝建設の正社員です」
「万ちゃんも一人になって寂しくなるわね」
「でも入れ替わりで新しい内弟子が入るんですよ」
 あゆみがそう云ってから、トウモロコシを半分に折るのでありました。
(続)
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