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お前の番だ! 191 [お前の番だ! 7 創作]

「あれ、そうなんですか?」
 万太郎は再び腕組みをして首を傾げるのでありました。「じゃあ、三人で、一体何の話しをされているんでしょうかねえ?」
「それは多分、矢張り、良君と香乃子ちゃんの事だと思うけど」
「その話しであるとして、あゆみさんじゃないとすれば、一体どう云うルートから鳥枝先生にその話しが行ったんだろう?」
「お父さんの方は未だ知らないみたいだった?」
「そうですね。師範控えの間では鳥枝先生の方から総士先生に、小難しい難題が出来いたしました、なんて話しを切り出されていましたから」
「で、良君を呼んで来い、って事になったのね?」
「そうです」
「じゃあ屹度、良君と香乃子ちゃんの事には違いないでしょうけどね」
 暫くして、万太郎とあゆみが向いあって座って腕組みをしながら、夫々のペースで首の左右へのひん曲げっこをしていると、納戸兼内弟子控え室の引き戸が突然開かれるのでありました。二人は同時にそちらの方に小難しそうな顔の儘目を遣るのでありました。
「なあんだ、あゆみさんもここに居たんですか。控えの間の方で総士先生が、鳥枝先生と二人の食事を、とおっしゃっていますよ」
 現れたのは良平でありました。
「良さん、総士先生と鳥枝先生との話しは終わったのですか?」
 万太郎がゆっくり立ち上がりながら訊くのでありました。
「ああ、終わったよ」
 そう云う良平の顔には陰鬱な翳が全く差してはいないのでありました。と云う事は良平にとって、ある程度に納得のいく話しあいが出来たと云う事でありましょうか。
「じゃあ、この部屋の掃除の続きと道場の点検の方は良君に頼むとして、万ちゃんはお父さんと鳥枝先生に食事を出すのを手伝って」
 あゆみが二人に指示するのでありました。万太郎は「押忍」と返して、良平に箒を手渡してからあゆみの後について母屋の台所の方に向かうのでありました。
「どういう風に話しがついたのかしらね?」
 台所で料理を盆に載せながらあゆみが万太郎に話しかけるのでありました。
「さあ、どんな按配でしょうかね。良さんの顔色から推察すれば、香乃子ちゃんとの結婚がおじゃんになったようではないようですが」
「確かに武道か香乃子ちゃんかどっちを取るか、なんてきつい選択を迫られたようじゃないわね。まあ、お父さんはそんな立つ瀬のないような理不尽は迫らないとは思うけど」
「良さんにとっても、道場にも、無難な線に落ち着いたのでしょうが、その無難な線、と云うのがどのような線なのか上手く推量出来ませんね」
「ま、後で食事の時に良君に直接聞けばいいか」
「そうですね。それが最も手っ取り早いですからね」
(続)
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