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お前の番だ! 176 [お前の番だ! 6 創作]

「おや、茶を持って来て、さっきまで廊下に座っていた堂下は、どうした?」
 興堂範士が廊下の方に視線を移して云うのでありましたが、それは別に意識して洒落を云おうとしてそう云ったのではないようでありました。
「ここは良いから、道場の受付に座っていろと自分が先程指示しました」
 花司馬筆頭教士が興堂範士に堂下が不在の理由を話すのでありました。
「ああそうかい。ま、それなら花司馬、お前が二人を玄関まで見送れ」
「押忍。勿論そういたします」
「いや、お見送りは結構ですよ」
 あゆみが花司馬筆頭教士に掌を見せるのでありました。
「いやいや、あゆみ先生に対して礼を失しては我が道場の名折れです。それに堂下に茶碗を片づけろと指示しなければなりませんから、一緒に玄関まで行きますよ」
「じゃ、あゆみちゃん、またな。くれぐれもあにさんに、お心遣い有難く頂戴いたしますと伝えておくれ。それに折野君、来週の出稽古も楽しみにしているよ」
 興堂範士は座敷に座った儘、廊下でもう一度正坐してお辞儀する万太郎とあゆみに手を上げて愛想を送るのでありました。
「失礼いたします」
 万太郎とあゆみが揃えるともなく声を揃えるのでありました。
 玄関まで花司馬筆頭教士だけではなく、威治教士も何故か億劫がらずについて来るのでありました。屹度あゆみが去る事への未練からであろうと万太郎は踏むのでありました。
「では、失礼いたします」
 万太郎とあゆみは花司馬筆頭教士と威治教位に、それに受付から廊下に出てきた堂下に向かって丁寧に頭を下げるのでありました。
「あゆみ先生、またいらしてください。折野君は、また来週な」
 花司馬筆頭教士は先ずあゆみに、その次に万太郎の方に顔の向きを移して、浅くお辞儀しながら云うのでありました。
「押忍。来週もよろしくお願いいたします」
 万太郎は深めのお辞儀をもう一度返すのでありました。
「あゆみちゃん、今度はゆっくり飯も食っていってよ」
 威治教士があゆみに笑いかけるのでありました。
「有難うございます。またその内に」
 あゆみはそう云ってから玄関を出るのでありました。万太郎は最後にもう一度、律義に中の三人にお辞儀をしてからあゆみの後を追うのでありました。
「花司馬先生があゆみさんを何時も、あゆみ先生、と呼んでいると云うのに、僕や良さんがあゆみさんの事を、あゆみさん、と呼び続けるのは不謹慎ではないでしょうか?」
 御茶ノ水駅から乗った新宿に向かう電車の中で、万太郎は隣に並んで立って吊革に摑まっているあゆみに訊くのでありました。
「何、改まって?」
(続)
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