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お前の番だ! 175 [お前の番だ! 6 創作]

「でも世間じゃ、剣術は別としても、体術では親父さんの方が上だと評判だぜ」
「そんなのは、ワシの技の派手さに惑わされている素人の見損ないじゃな。剣術は云うまでもなく、体術の実力に於いてもワシは到底あにさんには叶わない」
「一度勝負してみると一目瞭然だけどな」
 威治教士は満更冗談でもない口ぶりで云うのでありました。
「そうじゃ。確かに勝負すれば一目瞭然じゃ。だからワシはあにさんに今まで勝負を挑んだ事がない。勝負すればワシは屹度、手もなくあしらわれてお仕舞いじゃろうからな」
「そうかな? そうばかりとも思えないけど」
「ま、興堂派道場の門弟として、そう思っていてくれるのは有難いと云うものじゃがな」
 興堂範士はここで花司馬筆頭教士に顔を向けるのでありました。「花司馬、お前はワシとあにさんが勝負したらどうなると思う?」
 そういきなり嘴を向けられて花司馬筆頭教士は困惑の表情をするのでありました。
「いやあ、自分は是路総士先生も道分先生も、勝ち負けとか云う領域からは既に遠い境地に到られているのだと思っております」
「なんじゃ、有耶無耶を云って逃げおったな」
 興堂範士は大笑するのでありました。別に花司馬筆頭教士に踏み絵させているわけではないので、それ以上彼の人を困らせる事は控えるようでありました。
「さて、あゆみちゃん」
 興堂範士は話頭を変えるのでありました。「あゆみちゃんも、偶にはウチの道場に出稽古にお出でなさい。そうするとウチの女の門弟共が喜ぶ」
「確かにあゆみ先生は、ウチの女子の門下生達の憧れの的ですからね」
 花司馬筆頭教士が肯うのでありました。「連中ときたら、自分の云いつけとか指導なんか聴きもしないくせに、あゆみ先生の云う事ならよく聴きますね」
「そりゃそうじゃ。ワシだって花司馬の云う事なんぞは聴く気もないが、あゆみちゃんの云う事だったら何でも素直に聴くわい」
 興堂範士が雑ぜかえすのでありました。
「押忍。恐れ入ります」
 花司馬筆頭教士は何となく真面目な顔つきで興堂範士にお辞儀するのでありました。その様子が可笑しかったのか、あゆみが口元を手で隠して笑うのでありました。
「じゃあ、あたし達はこの辺で失礼します」
 あゆみが笑い収めて興堂範士に向かって頭を下げるのでありました。
「ああそうかい。何なら次の稽古にも出てその後飯でも食っていくかい?」
「有難うございます。でも今日は未だ総本部の方の内弟子稽古等もありますから、それに間にあうように帰りたいと思っておりますので」
「ああそういかい。稽古だと云うなら引き留めるわけにもいかんが」
「また近い内に、ゆっくりお邪魔させていただきます」
 あゆみは少し後ろに躄って、興堂範士に向かって律義な座礼をするのでありました。
(続)
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TERU

今年1年大変お世話になりました。
穏やかな新年をお迎えくださいませ。
by TERU (2014-12-31 16:42) 

yam

新年明けましておめでとう御座います。

本年も引き続き宜しくお願いします。
by yam (2015-01-02 07:43) 

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