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お前の番だ! 166 [お前の番だ! 6 創作]

 風呂から上がって内弟子部屋に戻ると、良平が二人の床を延べていてくれるのでありました。何時もながら兄貴気取りの全くない兄弟子であります。
「ところで万さんはどうするんだい、この三連休は?」
 良平は布団の上に胡坐に座って万太郎に聞くのでありました。
「僕ですか? 僕は明日は、上野のギャラリーで書道展の手伝いです」
 それは大岸聖子先生の所属する一門の書道展で、万太郎は何も出品してはいないのでありましたが、一応週に一度大岸先生から手ほどきを受けている手前、裏方として手伝いに駆り出されているのでありました。あゆみは大判の書を何点か出品していて、矢張り受付やら接客やらの仕事を仰せつかって、明日は一緒に出向く予定でありました。
「ああそうか。大岸先生の方の書道展か」
 良平はそう云って思い出したように頷くのでありました。「本当なら俺も手伝いに行かなければならないところだが。・・・」
「いやまあ、手伝いは強制ではなくて、あくまでもこちらが手隙ならと云うお誘いのようなものですから、良さんは大丈夫ですよ。僕にはあゆみさんから数日前に話しがあって、どうせ休みと云っても暇を持て余している口だから快諾したのです」
「ああそうか。その書道展の話しは知っていたんだが、手伝いの件は俺には大岸先生からもあゆみさんからも話しがなかったなあ」
「その日は香乃子ちゃんとの大事なデートなんだから、俺は絶対に都合が悪いんだ! と云うオーラが良さんの全身からムラムラと発散されていて、それを気取ったんで大岸先生もあゆみさんも依頼を遠慮したのではないでしょうかね」
「そんなわけはないだろう」
 良平が大真面目な顔で首を断固として横にふるのでありました。
「でも結局、依頼があったとしても断るでしょう?」
「いや、そうとも限らん。達てのお願い、と云うのなら断る道理はない」
「達てのお願い、ではない場合は断るでしょう?」
「ま、断るかな」
 良平は苦笑いながら頭を掻くのでありました。
「まあ、僕が書道展の手伝いであれこれ扱き使われているのを時々思い出しながら、良さんは香乃子ちゃんとのデートを大いに楽しんでください」
「何となく、その云われ方は引っかかるものが残る」
 良平は万太郎の顔を恐縮の態で見るのでありました。
「いやまあ、それは冗談ですよ。ちょっと羨ましいだけです」
「済まんなあ」
 良平が万太郎に畏まってお辞儀するのでありました。
「デートは何処に行くんですか?」
「横浜だよ。山下公園とか港の見える丘公園なんかを散歩して、それから中華街で飯食って、その後は喫茶店にでも入ってお喋りする」
(続)
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