お前の番だ! 165 [お前の番だ! 6 創作]
「良さん、妙に上機嫌ですね」
万太郎は壁際の手ぬぐいかけから自分のタオルを取りながら云うのでありました。
「明日から待ちに待った三連休だからな。盆と正月以外で三連休なんてえのはこの一年なかったから、そりゃ浮き々々もするさ」
道場定休である月曜日と祝日が連なって、偶々三連休となったのでありました。
「何処かに出かけるのですか?」
「うん、まあね」
良平は意趣有り気な笑いを浮かべるのでありました。
「ひょっとして、デートですか?」
良平の表情が一瞬固まるのは図星されたからでありましょう。
「なんで判るんだ?」
「いやあ、当てずっぽうに云っただけですよ」
万太郎は片手を横にふって見せるのでありました。「しかし、本当にデートだと云うのなら、これはちょっとその儘聞き捨てならない事態ですね」
「こう見えて俺もなかなか色男なわけだ」
良平は自慢気に頭を掻くのでありました。
「相手は何処の誰です?」
「万さんも知っている人だよ」
「僕も知っている人ですか? はて、誰だろう」
万太郎はタオルを肩にかけて、腕組みしてから首をやや横に傾げるのでありました。「鳥枝建設の常勝流愛好会の川井香乃子ちゃん辺りかな」
また良平の表情が固まるのでありました。
「それもどうして万さんに判るのかなあ」
「ああ、川井香乃子ちゃんなんだ、相手は」
「ま、正解だ」
良平はだらしなく相好を崩しながら、あっさり白状するのでありました。
「良さんも隅に置けないですね。どういう風にそんな話しを纏めたのですか?」
「いやまあ、色男はこの道にかけては手抜かりがないんだよ」
「鳥枝建設の稽古では鳥枝先生の目もあるし、稽古後の居酒屋の宴会では何かと用を云いつけられるし、そうそう香乃子ちゃんとデートの話しをするチャンスもないでしょうに」
「そう云う中で事を纏めるのが色男の色男たる所以だな」
良平が生一本の色男かそうでないかは一先ず置くとして、確かに大した手練ではあると万太郎は敬服するのでありました。無精な万太郎には到底真似の出来ない仕業であります。
「いやまあ、取り敢えず僕は風呂に入ってきますよ」
万太郎はそう云って内弟子部屋から出るのでありました。
「あいよ。ゆっくり温まっておいで」
良平はおせっかいな事を云いつつ万太郎を見送るのでありました。
(続)
万太郎は壁際の手ぬぐいかけから自分のタオルを取りながら云うのでありました。
「明日から待ちに待った三連休だからな。盆と正月以外で三連休なんてえのはこの一年なかったから、そりゃ浮き々々もするさ」
道場定休である月曜日と祝日が連なって、偶々三連休となったのでありました。
「何処かに出かけるのですか?」
「うん、まあね」
良平は意趣有り気な笑いを浮かべるのでありました。
「ひょっとして、デートですか?」
良平の表情が一瞬固まるのは図星されたからでありましょう。
「なんで判るんだ?」
「いやあ、当てずっぽうに云っただけですよ」
万太郎は片手を横にふって見せるのでありました。「しかし、本当にデートだと云うのなら、これはちょっとその儘聞き捨てならない事態ですね」
「こう見えて俺もなかなか色男なわけだ」
良平は自慢気に頭を掻くのでありました。
「相手は何処の誰です?」
「万さんも知っている人だよ」
「僕も知っている人ですか? はて、誰だろう」
万太郎はタオルを肩にかけて、腕組みしてから首をやや横に傾げるのでありました。「鳥枝建設の常勝流愛好会の川井香乃子ちゃん辺りかな」
また良平の表情が固まるのでありました。
「それもどうして万さんに判るのかなあ」
「ああ、川井香乃子ちゃんなんだ、相手は」
「ま、正解だ」
良平はだらしなく相好を崩しながら、あっさり白状するのでありました。
「良さんも隅に置けないですね。どういう風にそんな話しを纏めたのですか?」
「いやまあ、色男はこの道にかけては手抜かりがないんだよ」
「鳥枝建設の稽古では鳥枝先生の目もあるし、稽古後の居酒屋の宴会では何かと用を云いつけられるし、そうそう香乃子ちゃんとデートの話しをするチャンスもないでしょうに」
「そう云う中で事を纏めるのが色男の色男たる所以だな」
良平が生一本の色男かそうでないかは一先ず置くとして、確かに大した手練ではあると万太郎は敬服するのでありました。無精な万太郎には到底真似の出来ない仕業であります。
「いやまあ、取り敢えず僕は風呂に入ってきますよ」
万太郎はそう云って内弟子部屋から出るのでありました。
「あいよ。ゆっくり温まっておいで」
良平はおせっかいな事を云いつつ万太郎を見送るのでありました。
(続)
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