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お前の番だ! 125 [お前の番だ! 5 創作]

「へえ、そうですか」
 長崎と熊本じゃさして関連がないだろうと万太郎は思うのでありました。ま、同じ九州地方の中にあると云う事はありますが。
「子供の頃にその親類の処へ遊びに行った事があってね、船で一度熊本の方に旅行に連れて行かれた事があるよ」
 ああ成程そう云う話しの展開かと万太郎は一応納得するのでありました。
「船で熊本の方に行かれたと云う事は、長崎と天草の富岡を結ぶフェリーがあります。それに島原から三角と云う処を結ぶフェリーもありますね」
「茂木と云う処から乗る船だったな」
 新木奈は遠い記憶を辿っている顔をするのでありました。
「じゃあ富岡の方へ行くフェリーですね」
「その辺はもう忘れたな。結構その船が揺れたのは覚えているが」
「そうですか。あの辺の海は波が高いですからね」
「で、天草五橋とか熊本城とか水前寺何とか庭園に行ったかな」
「阿蘇山とか人吉の方は行かなかったですか?」
「さあどうだったかな。なにせ小学校低学年の頃だからあまり覚えていない。確か熊本市内で一泊して次の日には帰ったな」
「一泊二日となると阿蘇山には強行軍をすれば行けるかな。若し阿蘇山に行かれたとするなら、小学校の低学年とは云っても、記憶が残っていると思いますよ。広大な噴火口からモクモクと上がる噴煙はかなり印象的ですからね」
「そう云った記憶は全くないね」
 新木奈はあっさりと首を横にふるのでありました。
「僕の出身は人吉と云う処で熊本県の南の山の中ですよ。ま、その一泊二日の熊本旅行では恐らく日程上行かれなかったでしょうけどね」
「ああ、人吉ね。聞いた事はあるよその地名は」
「温泉と球磨川下りが有名ですかね」
「そう云う地名を知っていると云うだけで、他の事は何も知らない」
「ああそうですか」
 はいこれにてこの話題はお仕舞い、と万太郎は思うのでありました。クレージーキャッツで盛り上がる良平と三方とは大違いであります。
 新木奈としても、万太郎と熊本の話題で盛り上がる気なんぞは更々なかったでありましょう。良平と三方のクレージーキャッツの話しに入りこめないので、同じく徒然顔の万太郎にちょっとした愛想の心算で話しかけたと云うだけの事でありましょうか。
「折野さん、内弟子の稽古は俺達一般門下生なんかとは全然違って厳しいんでしょう?」
 新木奈の隣に座っている、木間注連男、と云う万太郎や良平より三つ年下の門下生がビール瓶を万太郎の方に差し出しながら云うのでありました。
「稽古もきついけど、先生方のお世話とか道場仕事のあれこれの方が大変ですかなあ」
(続)
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