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お前の番だ! 96 [お前の番だ! 4 創作]

「それじゃあ私は先に道場へ行っております」
 寄敷範士が正坐して是路総士にお辞儀するのでありました。
「判りました。では後程」
 是路総士もお辞儀するのでありました。
「折野、お前も一緒に来い」
「押忍。同行させていただきます」
 万太郎はそう寄敷範士に頭を下げながら云って、是路総士の方に向かって格式張った座礼をするのでありました。「押忍、先に行っております」
 是路総士は頷くのでありました。是路総士の後ろの床の間に置いてある時計を見ると、稽古開始の午後三時には未だ十分程あるのでありました。
 寄敷範士を先導して道場まで来ると、絶妙のタイミングで良平が引き戸を開けるのでありました。先ず寄敷範士が入ってその後に万太郎が続くと、良平が引き戸を閉めておけと顔を横に一回小さくふって無言で合図するのでありました。
 既に道場に参集していた二十人程の門下生が寄敷範士の登場を見て、夫々に「押忍」の挨拶を送るのでありました。寄敷範士はそれに一々応えながら、見所の前に正坐して横手の壁にかけてある時計に目を遣るのでありました。
 稽古開始五分前になると寄敷範士は下座奥に退くのでありました。それを合図に門下生達は下座に整列して、是路総士の入場を待つのでありました。
 あゆみの先導で是路総士が道場に姿を現して、三時からの一般門下生稽古が始まるのでありました。是路総士はまたもや入場の際に敷居に少し躓いて見せるのでありました。

 神保町の興堂派道場への出稽古から調布の総本部道場に帰り着くと、午後十一時近くになっているのでありました。万太郎が玄関の引き戸を開けて是路総士の帰着を告げると、出迎えのために良平が納戸兼内弟子控え室からすぐに出てくるのでありました。
 気配を察して少し遅れてあゆみも母屋の方から趨歩して来るのでありました。良平は未だ稽古着の儘でありましたが、あゆみは平服に着替えているのでありました。
「お疲れ様でした」
 二人は板張りに正坐して是路総士に畏まってお辞儀するのでありました。
「はい、ただ今帰りました」
 是路総士は一礼を返した後で靴を脱ぐのでありました。是路総士が脱ぎ捨てた靴を万太郎がすかさず沓入れに仕舞うのでありました。
「風呂が沸いております」
 良平が気をつけをした儘やや上体折って云うのでありました。
「おおそうか。では早速入るとするか」
 是路総士は良平に先導されて直接母屋の風呂場に向かうのでありましたが、あゆみもつき従うのは是路総士の着替えを出すためであります。万太郎は出稽古に持って行った木刀を納めるために一人道場に向かうのでありました。
(続)
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