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お前の番だ! 87 [お前の番だ! 3 創作]

「二口か三口くらいの量だぞ」
 良平が、小盛り、の具体的な程を指示するのでありました。万太郎は自分は大盛りにするつもりであったのに、先輩内弟子の良平が二口か三口となると、その弟弟子たる者が二杯目の大盛りはちょっと無神経かなと気を遣うのでありました。
 万太郎が良平の碗に二口か三口分の飯を入れてそれをすぐに良平に渡し、さて、自分はそれより少しだけ多めの三口か四口分を入れる方が無難に違いないと思い巡らしていると、あゆみが万太郎に声をかけるのでありました。
「折野君は遠慮しないで好きなだけ盛っていいのよ」
 そう勧められて万太郎はあゆみに嬉しそうな上目を向けるのでありましたが、その表情が可笑しかったのかあゆみは箸を持った右手の甲で口を隠して吹くのでありました。
「総士先生は、お代わりは如何ですか?」
 万太郎は居間の是路総士の方に視線を向けるのでありました。
「いや、結構」
 是路総士は左手に抱えた御付の具の、賽の目に切ってある豆腐を箸で摘みつつ万太郎の方に顔を向けずに云うのでありました。
「押忍。畏まりました」
「こっちに構わずたんと食え」
「押忍。有難うございます」
 成程、窮屈な内弟子生活で食事の時間が和気藹々の貴重な息抜きとなるのだなと、万太郎は感得するのでありました。道場の稽古ではきつくしごかれ、家に在っては家隷の如くに扱き使われて、それでも文句も云わず格式張ってお辞儀ばかりする生活だけでは、それは確かに内弟子なんぞはやっていられないと云うものであります。
「折野君、後片づけ手伝ってね」
 大いに腹も満足して万太郎が箸を置くとあゆみが声をかけるのでありました。支度は良平が手伝ったので、片づけの方は自分が手伝う番だと云う事でありましょう。
「押忍。承りました」
 一同でごちそうさまでしたと合掌しながら声を揃えた後、良平が部屋に引き上げ、是路総士が常勝流総帥としての事務仕事のためか師範控えの間に移動すると、台所兼食堂に万太郎とあゆみだけが残るのでありました。
「テーブルのお皿を流しの方に持ってきて。それからこれで後を綺麗に拭いておいてね」
 あゆみは万太郎に湿らせてきつく絞った膳拭きを手渡すのでありました。万太郎は先ず居間の是路総士が使った食器類を持って行き、その後で食堂のテーブルの上の三人が使った皿や碗を重ねて流し台の方に運ぶのでありました。
 テーブル拭きが終わると、今度はあゆみが洗った皿や箸を万太郎が布巾で拭くのでありましたが、二人並んで流し台の前に立ってあゆみの手際の良い水仕事ぶりを見ながら、万太郎は小学生の時に同じように実姉の手伝いで皿を拭いた事をふと思い出すのでありました。その時は嫌々手伝ったのでありましたが、今はそれほど嫌でもないのでありました。
(続)
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